産総研、170GHzまで材料の誘電率を高精度に計測:周波数測定の上限を拡張
産業技術総合研究所(産総研)は、10G〜170GHzの広帯域にわたって、エレクトロニクス材料の誘電率を高い精度で測定できる技術を開発した。
共振器に0.8mm同軸線路を採用、解析方法も改良
産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門電磁気計測研究グループの加藤悠人研究員と堀部雅弘研究グループ長は2019年1月、10G〜170GHzの広帯域にわたって、高周波回路基板などに用いるエレクトロニクス材料の誘電率を高い精度で測定できる技術を開発したと発表した。
周波数30G〜300GHzのミリ波帯電磁波は、大容量データを高速伝送するのに適しており、次世代無線LAN規格や5G(第5世代移動通信)、車載レーダーなどでの利用が拡大しつつある。ところが、100GHz以上の周波数帯で、低損失材料の誘電率を高い精度で計測する技術はこれまで確立されておらず、回路設計時に想定した性能が、試作の段階では得られないこともあったという。
研究グループは今回、170GHzまでの信号を給電できる極細線の同軸励振構造と電磁界解析アルゴリズムを開発し、平衡型円板共振器法による超広帯域での誘電率を高い精度で計測する技術を実現した。
平衡型円板共振器法は、被測定物となる誘電体材料と銅箔(はく)の円板を金属板で挟んで共振器を構成。同軸線路を用い共振器中央に給電することで特定の共振モードだけを選択的に励振して、超広帯域の測定を行う。この時、これまでは励振機構に1mm同軸線路を用いていたため、カットオフ周波数の約130GHzまでが、理論的な誘電率測定の上限周波数となっていた。
今回の研究では、測定周波数の上限を拡張するため、2つの技術を開発した。1つは0.8mm同軸線路を用いた共振器の開発である。この同軸エアライン線路のカットオフ周波数は約170GHzとなる。この結果、約170GHzまでの共振器励振を利用した誘電率計測が可能となった。
もう1つは、測定結果から材料の誘電率を求める解析方法を改良したことだ。共振器内では、銅箔円板の上下領域で、測定する平板材料に垂直な電界が発生する。この電界は銅箔円板の外側にも漏れる(縁端効果)。誘電率を正確に測定するには、縁端効果の影響を補正する必要があるという。
研究グループは今回、モードマッチング法を用いて縁端効果の補正を詳細に解析した。この結果、100GHz以上の周波数帯域で、従来の解析法よりも正確な誘電率を得られることが分かった。開発した解析アルゴリズムの妥当性は、有限要素法による電磁界シミュレーションで確認した。
研究グループは今後、平衡型円板共振器法のさらなる高周波化を目指しながら、ミリ波帯における他の測定方法との比較も行う計画である。
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