EV減速もADAS開発は加速、車載チップでは新勢力も:IHSアナリスト「未来展望」(14) 2019年の半導体業界を読む(2)(2/3 ページ)
IHSマークイットジャパンのアナリストが、エレクトロニクス業界の2019年を予測するシリーズの第2回。今回は、自動車市場に焦点を当てる。
自動運転向けのADASアーキテクチャはある程度確立済み
EETJ ADASでは、具体的にどのような開発が進んでいるのでしょうか。
杉山氏 ADASでは、どのようなシステムアーキテクチャでレベル4の自動運転を実現するか、というところまでは、ある程度確立されてきている。
これまでは、中央で制御するドメインコントローラーというアーキテクチャが主流だったが、現在は、そこから一歩進んだ「Autonomous Driving Domain Controller」というアーキテクチャが登場している。Autonomous Driving Domain Controllerでは、NVIDIAのGPU、Mobileyeのチップセット、FPGA、そして車載マイコンという4つの要素で構成したアーキテクチャがトレンドになっている。
NVIDIAのチップでは、360度カメラなどで撮影した画像を処理する。Mobileyeのチップでは、前方のカメラとラインコントロールを制御し、FPGAではレーダーやLiDARなど、カメラ以外のセンサーから取得したデータをまとめる。そして、「走る」「止まる」といったクルマの制御はマイコンで行うというのが、Autonomous Driving Domain Controllerの基本だ。
このように、ADAS向けのシステムアーキテクチャがある程度確立されてきているので、各社が開発に積極的になっている。日本メーカーも、国内外の自動車メーカーに向けて開発を進めている。
EETJ ADASの中身、つまりセンサーなどについてはどうでしょうか。
杉山氏 鍵になるのはLiDARとCMOSイメージセンサーではないか。特に注目しておきたいのはCMOSイメージセンサーだ。ソニーがCMOSイメージセンサーで自動車市場に参入することを表明している上に、今後の3年間で半導体の設備投資に6000億円を投じると発表している。ソニーを筆頭に、ADAS向けのセンサーではプレイヤーが増えている。さらに、センサーからのデータを集約するセンサーフュージョンも、これから伸びていく分野だろう。
EETJ EVの開発がスローダウンしている理由は、やはり供給電力の問題でしょうか。
杉山氏 そうだと考えている。日本では現在、約8000万台の自動車があるが、そのうち3分の1をEVに替えると仮定しても、原子力発電所があと1〜2基必要になってくるくらいの電力が必要だ。これは、原子力発電所を次々に作っている中国を除き、欧米でも状況は同じだ。
EETJ ティア1各社や、半導体メーカーの開発状況について教えてください。
杉山氏 例えばEVチャージャー向けなどのアナログ半導体が、注目されている。これまではエンジン系の開発を主に手掛けてきたRobert Bosch(ボッシュ)などのティア1サプライヤーも、インバーターなどのパワー系に開発リソースをシフトしてきている。
インバーターでは、特にSiCを採用したインバーターにおいてローム、富士電機、三菱電機など日系メーカーも強く、開発が加速している。
自動運転については、マイコンに求められる性能がどんどん高くなっていることが、開発のポイントとして挙げられる。現在、EVには約60個のECU(電子制御ユニット)が使われているが、これを統合によって減らしていく流れになっている。そうなると、一つのECUでサポートする負荷が大きくなるため、マイコンについても、SoC(System on Chip)あるいはプロセッサに近いものが求められるようになっている。
QualcommやMediaTekの存在感が高まる?
EETJ マイコンには、どの程度の性能が要求されるようになっているのですか。
杉山氏 その辺りを、われわれも自動車メーカーに聞いているところだ。先ほど話したように、自動運転向けのADASのアーキテクチャはある程度決まったので、あとはその周辺の制御をどう統合していくかが、開発の焦点だろう。
クルマは、ADASのドメインコントローラー、インフォテインメント、ボディーコントロール、シャシー、そしてパワートレインといった具合に、ドメインに分かれている。それらを中央制御するために、各ドメインにECUがぶら下がっており、それを統合しようとしている。2020年には、ECUの数を大幅に減らした自動車が市場に投入されると聞いている。
EETJ そうなると、最も影響を受けるのは車載向けマイコンを提供しているメーカーでしょうか。
杉山氏 マイコンの出荷数は減っていくのではないか。ECUに搭載するチップがプロセッサ寄りになると、これまでとは異なるプレーヤーが台頭する可能性がある。ルネサスやSTMicroelectronics、Infineon、NXPといった伝統的な車載マイコンメーカーではなく、モバイル系プロセッサを手掛けてきたメーカーだ。QualcommやMediaTek、Samsungなどが、モバイル市場で培った技術を生かし、まずはインフォテインメント系から参入し、ECUなど制御系まで狙うというアプローチを取っている。業界関係者から、QualcommやMediaTekの製品や性能について聞かれることも増えてきた。
スマートフォンなどを使う車載インフォメントシステムでは、OSがAndroidの物も多い。そうなると、最初からAndroidに対応しているQualcommやMediaTekを使う方が速い。そこを皮切りに制御系にも参入してくるとなると、伝統的な車載マイコンメーカーの立場を脅かす可能性もあるのではないか。
EETJ 先ほど少しSiCの話が出ましたが、SiCの採用は自動車市場では進んでいるのでしょうか。
杉山氏 SiCデバイスは、やはりまだ価格がボトルネックになっている。SiCパワーデバイスが本格的に自動車に搭載されるようになるのは、2020年以降ではないかとみている。
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