相変化蓄熱部材で高い蓄熱密度と機械強度を両立:二酸化バナジウム粉末を焼成成型
産業技術総合研究所(産総研)の研究チームは、高い蓄熱密度と機械強度を実現できる「二酸化バナジウム相変化蓄熱部材」を開発した。
蓄熱密度は氷やパラフィン系油脂膜に匹敵
産業技術総合研究所(産総研)磁性粉末冶金研究センターエントロピクス材料チームの藤田麻哉研究チーム長と中山博行主任研究員および、杵鞭義明主任研究員は2019年3月、高い蓄熱密度と機械強度を実現できる「二酸化バナジウム相変化蓄熱部材」を開発したと発表した。
潜熱蓄熱材は、電気部品や機械部品、構造部材などに組み込み、未利用熱や自然熱を有効活用することができる材料として注目されている。固体中の電子の相変化を利用する「二酸化バナジウム」もその1つだ。産総研はこれまで、二酸化バナジウムを焼結できることを見いだしていたが、その焼結体は脆いため、部材として用いることができなかったという。
そこで今回、焼結中にバナジウムと酸素の特殊な反応を起こす粉末原料を開発した。これにより、従来は固化成型が極めて困難であった二酸化バナジウムの焼結が容易となり、加工可能な二酸化バナジウムのバルク部材を実現することができた。
実験室で作製したバルク部材は、直径が50mmで厚みは5mmの円盤形状である。硬さを示すビッカース硬度はHv300以上であり、圧縮強度は160MPa以上となった。この数値は、部品加工向けのセラミック材と同等だという。
開発した二酸化バナジウム部材の蓄熱密度は、二酸化バナジウム粉末の潜熱由来の蓄熱密度(約250J/cm3)の約95%を維持している。開発した技術は、蓄熱動作温度を制御するために3種類目の元素を添加した二酸化バナジウム粉末についても有効であることが分かった。
開発した蓄熱材料は、氷(蓄熱密度333J/cm3)やパラフィン系油脂膜(蓄熱密度約150〜200J/cm3)に匹敵する蓄熱密度を達成した。動作温度も従来の領域をカバーしている。加工性にも優れており、熱交換機のフィンや電子機器の筐体の一部として利用することができる。もちろん、氷のように固体から液体へ相変化することがないので、材料を保持する容器などを用意する必要がない。
研究チームは今後、開発した部材の熱伝導を評価すると同時に、蓄熱温度域や蓄熱量などの特性を用途に合わせて調整できるよう、材料設計に取り組む。将来的には、電場や圧力を加えて能動的に蓄放熱できる動作を目指す計画だ。
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