BAW共振器をマイコンに内蔵、外付けの水晶が不要に:通信向けにTIが開発
Texas Instruments(TI)はドイツ・ニュルンベルクで開催された組み込み技術の展示会「embedded world 2019」(2019年2月26〜28日)で、通信インフラやネットワークルーターなどのクロック源としてBAW(バルク弾性波)共振器を搭載したワイヤレスマイコン「SimpleLink CC2652RB(以下、CC2652RB)」と、ネットワーククロックシンクロナイザー「LMK05318」を発表した。
Texas Instruments(TI)はドイツ・ニュルンベルクで開催された組み込み技術の展示会「embedded world 2019」(2019年2月26〜28日)で、通信インフラやネットワークルーターなどのクロック源としてBAW(バルク弾性波)共振器を搭載したワイヤレスマイコン「SimpleLink CC2652RB(以下、CC2652RB)」と、ネットワーククロックシンクロナイザー「LMK05318」を発表した。
TIでSimpleLinkのゼネラルマネジャーを務めるMattias Lange氏は、「IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、通信、産業オートメーションなど、膨大な量のデータを移動(送受信)し、分析する用途では、基準クロックの精度が高いほど、データやシステムの時間をより正確に同期するので、システムの高効率化と高精度化を図ることができる。だが、現在クロックに用いられている水晶は、天然の材料であり、劣化や環境耐性に課題がある上に、精度には限界がある」と説明する。
そこでTIが開発したのがMEMSベースのBAW共振器だ。
圧電体を電極で挟む構造を持つBAW共振器は、高Qを実現できることが特長である。既存のBAW共振器は、軍事向けレーダーなどの非常に高性能なシステムで使われているが、システムに外付けする形で用いられている。TIが今回発表したデバイスでは、BAW共振器をパッケージ内に内蔵している点が最大の特長だ。
TIが開発したBAW共振器では、MEMS振動子に電流を流して弾性波を生成する。この弾性波の周波数を、クロックとしてパッケージ内の回路に供給する仕組みになっている。「MEMSはシリコンで製造されるので、製造プロセスでのコントロールを、水晶よりも格段にしやすくなる」(Lange氏)
CC2652RBとLMK05318は、BAW共振器をデバイスに集積することで、より安定したクロックを供給できるようになる上に、振動や温度への耐性も向上するとLange氏は説明する。周波数安定性は、全動作範囲内において±40ppmを実現している。このため、より高精度で安定したデータ通信が可能になり、環境耐性の強い通信システムの構築に貢献できるとする。
さらに、外付けの水晶発振子(48MHz)が不要になるので、設計が容易になりBOM(Bill of Material)コストも低減できる。「水晶振動子は繊細な部品であり、設計や実装において最も神経を使う部分。そこが不要になるのは、設計者の負担を大幅に減らせるはずだ」(Lange氏)
左がワイヤレスマイコン「SimpleLink CC2652RB」を実装した基板で、右が従来の外付け水晶振動子を使った基板。黄色い枠で囲んでいる箇所が水晶振動子。CC2652RBを採用することで、基板面積を12%低減できる(クリックで拡大)
CC2652RBは、ZigBee、Thread、Bluetooth Low Energy(BLE)、2.4GHz帯のワイヤレス通信など、複数の通信規格を1チップでサポートできる。
一方のLMK05318は、400ビット/秒(bps)リンク向けの1チャンネルネットワークシンクロナイザーである。部品を追加することなく、312.5MHz(APPL1)において50フェムト秒のジッタ性能を実現できるとする。
CC2652RBは7×7mmのVQFNパッケージで、サンプリング中だ。1000個購入時の参考価格は3.55米ドルから。LMK05318は量産出荷を既に開始していて、パッケージは7mm角の48ピンVQFN。1000個購入時の参考単価は11.44米ドルからとなっている。
「われわれが今回発表したデバイスによって、これまでハイエンドシステムにしか使われてこなかったBAW共振器を、主流のデバイスやシステムに採用することができるようになる」と、Lange氏は強調した。
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