なぜルネサスは工場を停止しなければならないのか ―― 半導体各社のビジネスモデルを整理する:大山聡の業界スコープ(15)(3/3 ページ)
2019年3月7日、ルネサス エレクトロニクスが国内9工場の操業を最大2カ月間停止することを検討している、という報道がなされ、その日同社の株価はストップ安を記録した。これが半導体市況全体の低迷によるものなのか、それともルネサス独自の問題によるものなのか、はっきりしない部分がある。今回は、主な半導体メーカー各社のビジネスモデルを整理しながら、各社がどのような点に注意を払うべきなのか、私見を述べてみたい。
なぜルネサスはこのような状況に追い込まれたのか
ここで改めて整理すると、日系半導体メーカーは、かつてはメモリを主力製品として右下象限のエリアに位置していたが、コスト競争/大量生産の戦いに敗れ、システムLSIに軸足を移そうとした。しかし強力なASSPを育てることができず、ASICでは十分な粗利が稼げずに、MCU、アナログICを中心とする右下の象限に位置するようになったのは必然的な結果と見ることができる。そしてMCUおよび、アナログIC分野では、ファブレスよりもIDMの方が圧倒的に高い実績を誇っている。これがASICやASSP分野とは大きく異なる面である。
ルネサスやInfineonといったMCUメーカーたちも一部をTSMCなどファウンドリーに製造委託しているが、自前の工場を持ち、自社のプロセス技術にこだわりを持つ点では共通している。Analog Devices(ADI)やMaxim IntegratedといったアナログICメーカーも同様で、一部の生産を委託しつつも自社のプロセスを持ち続けている。
正直なところ、本記事はIDMであるルネサスが2カ月もラインを止めざるを得ない、という事態に強い危機感を覚えたことで執筆した。予想以上に市況が悪化していることが原因の一つとはいえ、同業他社からは同じようなニュースは聞かれないし、そもそも同社は生産能力をほとんど拡大しておらず、古い工場を閉鎖している分、能力は減少する傾向にあるはずだ。にもかかわらず、なぜルネサスはこのような状況に追い込まれたのだろうか。そもそもルネサスは自社工場での生産をあまり重要視していないのだろうか。
日本を代表するIDMであるルネサスに限って、そんなことはないと思いたい。だが、自社工場に関してはリストラ関連のニュースばかり耳にしており、ポジティブなニュースはほとんど聞いたことがない。一方でルネサスは自前のプロセス技術に強いこだわりを持っており、TSMCなどのファウンドリーに製造を委託する際にもプロセスの移植を含めて非常に詳細な依頼を行うと聞いている。ルネサスはIDMとして何を重要視すべきか、社内が混乱しているのではないだろうか。同社内のモチベーションが必要以上に悪化しないことを願うばかりだ。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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