Facebook、インターコネクトIPベンダーのSonicsを買収:独自のチップ開発に加速(2/2 ページ)
Facebookは、米国カリフォルニア州シリコンバレーに拠点を置くIPプロバイダーのSonicsを買収した。Sonicsは、NoC(Network on Chip)や電力管理技術を専門とする非公開会社である。
Arterisにとっては「有利な状況」
Arteriesのプレジデント兼CEOで、チェアマンも兼任するK. Charles Janac氏は、EE Timesに対し、Sonicsの顧客の一部がArterisに問い合わせてきたことを明らかにした。同氏は「IntelがNetspeedを買収した時も同じことが起きた」と述べた。
Janac氏は、「私はこれまでのキャリアの中で、Cadenceに勤務していた時期も含め、このような状況は一度も経験したことがない。今回のような競争により、Arterisにとっては、敵対的どころか、むしろ有利な状況が作り出されている」と述べている。
米国の市場調査会社であるThe Linley Groupの主席アナリストLinley Gwennap氏も、Janac氏の見解に同意し、「Arterisは、FacebookのSonic買収により、高性能NoC IP(Intellectual Property)分野で唯一のサプライヤーとなる。ArmもインターコネクトIPを提供しているが、Arterisの性能レベルには達していない。つまりArterisは、独立系NoCベンダーを探しているSoC開発メーカーにとって、最良の選択肢となる」と述べている。
米国の市場調査会社Tirias Researchで主席アナリストを務めるKevin Krewell氏も同様に、「インターコネクト技術は、高性能SoC向けとして非常に重要な技術だ。Armは、独自のNoC技術を開発しており、つい最近新型コア『Neoverse』向けにアップデートを行ったばかりだ」と述べている。
Krewell氏は、「NoCは、チップ上のデータフローを管理し、専門知識を必要とすることから、インターコネクトIPの重要性がますます高まっている。このためArterisは、最後まで生き残った、“穴場”のような独立系NoCベンダーとして位置付けられるだろう」との見解を示している。
Facebookによると、同社はまず、SonicsのインターコネクトIPを、AR/VR製品に適用する予定だという。
多くの業界アナリストたちは、FacebookがSonicのIPを導入する主要な分野として、データセンター向けのSoCを挙げているが、Facebookの広報担当者は、この件に関するコメントを避けている。
Krewell氏は、「Facebookが、同社独自のマルチコアやヘテロジニアスプロセッサなどの開発に、真剣に取り組んでいるということが分かる。もちろん、最近ではこうした動きは、優れたクラウドプレイヤーであれば当然のことだといえる」と付け加えた。
しかし、The Linley GroupのシニアアナリストであるMike Demler氏は、「確かにFacebookは、自社のデータセンター向けにASICを開発しているが、『Oculus』のVRヘッドセットに向けた半導体チップの開発も進めている可能性がある」と述べている。今回このような見解を示したのは、同氏だけだった。
しかし、Krewell氏が驚いたのは、Facebookが、単に技術ライセンス供与だけを受けるのではなく、企業そのものを買収したという点だ。
またThe Linley Groupは、もう一つ別の見解として、「FacebookチームがSonics IPの採用を決定し、Sonicsでメモリ不足が生じた場合、Facebookが、設計プロジェクトを確実に継続するためとして介入してくる可能性がある。Intelが2018年にNetSpeedを買収した時と、よく似た状況になるのではないか」と述べている。
インターコネクトIP市場の競争が激化するに伴い、一部の業界観測筋からは、「Arterisはどれくらいの間、独立系企業としての位置付けを維持することができるのだろうか」とする疑問の声が上がっている。
Gwenapp氏は、「大手顧客企業が、Arterisの買収を試みる可能性がある」と指摘する。
だが、Arterisの幹部らは「それはない」と否定している。Arterisの年間売上高は約2700万米ドルだ。過去数年間の年間成長率は20%を維持していて、今後3年以内に上場する予定となっている。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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