マイニングキットの内部分析で見えてくること:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(33)(1/3 ページ)
今回は、最先端プロセスを使用した仮想通貨のマイニング専用チップを搭載するマイニングキットの内部を詳しく観察していく。その内部はある部分でスーパーコンピュータをも上回る規模を備えており、決して無視できる存在でないことが分かる――。
2018年に規制が強化され仮想通貨のマイニング(採掘)に急ブレーキがかかっている。最初に7nmの最先端プロセスを用いたマイニング専用プロセッサ(SHAプロセッサ)のリリースをアナウンスしたのは日本のGMOであった。説明会なども複数行われ2018年夏にはリリースが始まる予定であった。筆者が代表を務めるテカナリエでも、このプロセッサを解析するため、購入を決めて入金まで行った。
7nmプロセスの商用第1号は、2018年9月にAppleが発売した「iPhone XS」「iPhone XS Max」に使われるプロセッサ「A12」である。上記のようにマイニング市場の変化がなかったならば、GMOが7nmプロセス商用第1号になるはずだった。GMOはその後、マイニングマシーンの販売を停止し、返金も行った。
日本が半導体の最新微細プロセスを世界に先駆けて使用することは今ではほとんどない。この10年は世界の最先端世代の2つくらい遅れた世代を歩んでいる(とは言え、“日本発の世界初”もいくつか存在する。例えばルネサスの28nmマイコン)
7nmプロセスを現在の最先端プロセスとすれば、その一つ手前は10nmになる。米国、中国、台湾、韓国からは膨大な種類の10nmプロセッサが出回っている。「スマートフォン」「スマートウォッチ」「スマート○○○」など多くの製品での販売実績もある。しかし現時点では(試作品はあるが)日本発の10nmプロセス採用製品は皆無。稼働して日々収益を上げるチップが、量産チップだと定義すると、上記海外メーカーの10nmプロセス品はほぼ全てが巨大マーケット向けに開発され、今日もせっせと売れて金を稼いでいる。
日本メーカーは2世代どころではなく、もっと遅れていると見るべきなのかもしれない。7nmプロセスの量産化第2号は中国HUAWEI傘下の半導体メーカーHiSiliconの「KIRIN980」だった。2018年の旗艦スマートフォンであるHUAWEI「Mate20 Pro」に採用されるプロセッサだ。QualcommやSamsung Electronicsよりも早くに量産にこぎ着けたのは、Apple、HiSiliconの2社。ともに自社グループ向けの製品に特化したプラットフォームである。
外販しないとは、顧客の要求を取り入れないということである。自身が最適とするものと自分の手で作れば無駄な機能もないし、不足の機能もない。
こうして現在のトップ2が2018年に相次いで最先端の7nmプロセスでプロセッサを開発し、実製品に適応して開発力の高さを改めて示した。
では7nmプロセスの実用量産化3番手は一体どのメーカーのどの製品だったのだろうか。
その答えは、マイニングチップの中国Antminerであった。
7nmプロセス商用2号「Antminer S15/T15」の内部
図1は、2018年11月にAntminerが発売したマイニングマシーン「Antminer S15」と 「Antminer T15」である。
2機種はおおよそ同じ構造をしており、少し演算性能が異なる(弊社では両方を購入した)。図1はキットの外観(前後)である(右側はネットを外した状態:購入時にはネットで覆われている)。高さはおおよそ30cmほど。重さは6kg超。大きな空冷ファンが2基と、電源冷却用の小さな空冷ファンが2基搭載されている。マイニングマシーンは3つのブロックで構成される。図1の左側で説明しよう。上に外部とのインタフェースが存在する。マシーン同士の接続やインターネットの接続に使う。Ethernet接続だ(内部には最新のLANチップが設置される)。右側が電源基板。ここで整流された電源がマシーンの本体に供給される。かなり手の込んだ電源基板になっている。右側のネットを外した本体内部にはヒートシンクで覆われたマイニングチップボードが重なっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.