マイニングキットの内部分析で見えてくること:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(33)(2/3 ページ)
今回は、最先端プロセスを使用した仮想通貨のマイニング専用チップを搭載するマイニングキットの内部を詳しく観察していく。その内部はある部分でスーパーコンピュータをも上回る規模を備えており、決して無視できる存在でないことが分かる――。
1チップに10億個のトランジスタ
図2はマイニングキットからボードを取り出した様子である。
全部で3枚の基板が筐体の中に収まっている。それぞれはがっしりと本体に支えられているが、放熱に十分なスペースもある。基板の向こう側は、図1左の大きな空冷ファンがあり、排熱できるようになっているわけだ。
マイニングは一度演算がスタートするとひたすら全てのSHA演算器が動く。半導体は動作時には大きな熱が発生する。熱を下げるにはヒートシンクで放熱し、さらに空冷ファンで熱を外部に放出するしかない。スマートフォンでもPCでも規模こそ違っても同じ仕組みを持っている。スマートフォンの場合にはプロセッサのパッケージに放熱効果の大きいシリコングリースがべったりと塗られ、ものによってはシールドの金属やヒートパイプを通じて外部に熱を放出しているのだ。グラフィック用のGPUボードはマイニングマシーンに似ている。
熱を逃がさないとどうなるか。温度が上がり半導体は不具合を起こしてしまう。温度が上がれば半導体は速度が遅くなり、漏れ電流が増えるという特性を持っているので動作周波数を下げないと、正常に動作しない場合もある。
図3はAntminer S15/T15で使われる部品の一部である。米国と中国の半導体や部品で構成されている。
左はAntminerのマイニングチップ「Bitmain(BM)1391」という7nmプロセッサのチップ上のシリコンロゴの様子である。弊社ではチップ開封やパッケージ構造の解析を行った。7nmプロセスで製造されており、従来チップに比べてほぼ同じ面積に4倍規模の演算器が搭載されていることが確認できた。
一つの演算チップには約10億トランジスタが搭載されている。極めて大きな数字である。こうした膨大な回路を中国のメーカーが設計から、製造管理、製品化し、実際に2018年末からマイニングセンターなどで運用を開始していることは、驚愕でもある。
SHA演算器を単に並べただけ……でチップができるわけではない。演算器は動作に不可欠なクロックに近いものと遠いものがある。これらが均等に動くようにクロックツリーをきちんと設計し、管理しなくてはならない。
電源や信号もしかりである。10億トランジスタとは、多くの設計課題をきちんと対処しないとチップが動作しない規模である。また安定した電源を供給するために電源設計もかなり骨が折れるはずだ。一方で信頼性の問題もある。マイニングマシーンはいったん動き出すと、24時間365日フル稼働だ。そのためチップの寿命は非連続動作の多い一般的な半導体デバイスよりも短い。マイニングチップははるかに過酷な環境で使われる。そのため熱対策から構造寿命を延ばすための配線を太らせるなどの工夫もされている。寿命設計もちゃんとこなしているようだ。詳細データはSEM(走査電子顕微鏡)観察などで行ったがここでは省略する。
最大パフォーマンスを発揮するための多くのノウハウをマイニングマシーンには見ることができる。ここでは記さないが、マイニング用基板にも学ぶべき点、あるいは考えるべき点が多い。実際に動かし、実際に起こった問題を解決してきたAntminerらの思想が基板から垣間見ることができる。
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