デジタル時代の敬老精神 〜シニア活用の心構えとは:世界を「数字」で回してみよう(57) 働き方改革(16)(2/11 ページ)
今回は「シニアの活用」についてです。やたらとずっと働きたがるシニアに働いてもらうことは、労働力の点から見ればよい施策のはずです。ただし、そこにはどうしても乗り越えなくてはならない壁が存在します。シニアの「ITリテラシー」です。
日本のIT化は遅れている?
さて、私は、「働き方改革」についての連載を続けていますが、ここにちょくちょく、「IT化」のようなことが記載されています。
―― 今さら、IT化の話?
と思っていましたが、我が国のIT化は「相当に遅れているかもしれない」と考えるようになってきました。
これまでも介護、金融、広告、証券、その他の分野の人からいろいろとお話を伺ってきましたが、稟議、発注/検収、見積もり、勤怠管理の社内システムは言うに及ばず、社内の電子メールシステムさえ整備されておらず、外部につつぬけのSNSを業務に使っている実体を知って、びっくりしています。
もちろん、紙をベースとしたアナログ方式による業務運用には、良い面があります。アナログシステムの全てを非効率と決めつけることは、拙速で安直な考えだと思います。
しかし、各種のITサービスの中でも、「電子メール」は別格です。電子メールは、複数人に対する一斉通知、電子ファイルの添付などの機能があり、既に40年以上という実績を持つ、インターネットサービスの根幹と言えます。
今や、電子メール(または、SNSのメッセージ通信システム)は、水道、ガス、電力、輸送と同様の「生活インフラ」です。社会人や学生(小学生を含む)で「パソコンやスマホでメッセージ交換ができない」ということは、事実上、社会的な「死」を意味します。必要な情報が流れてこなくなるからです。
しかし、この「事実上社会的な『死』」のアウトサイドに存在している者たちが存在します ―― 「シニア」です。
「町内会」から見えてきた真実
ところで、町内会やPTAなどは、多くの人々にとって「関わりたくない組織No.1」で決定だと思います。私はこの原因の1つに、ITシステムを利用しないことがあると思うのです ―― 特に町内会の”後進性"は、筆舌に尽くしがたいほどひどいありさまです。
例えば町内会での、電話による連絡、通達物の自宅ポストへの投函などの作業は、電子メールを使えば、10秒もあれば片が付きます。そして、回覧板や町内会報は、町内会でWebサーバを立ち上げて、そこにアップロードして、パソコンやスマホで閲覧すれば、会員の負担も大きく減ります。
さらに、月例の町内会の集りなど行わなくとも、電子メールと添付ファイルを使えば、大半の業務はそれで足りると思っています*)。
*)実際に、私の管轄する部会では、電子メール(メーリングリスト)だけを使い、一回も会議を開くことなく運営しました。
そんな訳で、私は、そういう「関わりたくない組織No.1」である町内会の負荷を少しでも払拭すべく、いろいろなこと(電子メールの活用を含めた、IT化の施策)をやってきたのです。
ところが、町内会のIT化は、私の努力にもかかわらず、ほぼ全面的に失敗であったと告白せざるを得ません。
それは、ITサービスには、IT化に対応できない人間が一人でもいると、ITのメリットを全員が享受できなくなるという面倒くさい性質があるからです。
そして、その面倒を起こし続けていたのが「ITに対する興味がない(あるいは、その努力をしない)シニアたち」でした。
決定的だったのが、
―― 「メールが使えない/使わない」と平然と言い放つ人間が、町内会の幹部である
という事実でした。
下図は、総務省の資料から、私が算出した「世代別のメールが使えない比率」です。このデータから、この問題が、私の町内会だけではなく、日本全国で発生している問題であると考えています。
シニアには、ITに対する経験のなさや、あるいは、デジタルサービスに対する抵抗感があることは理解しています。
しかし、それ以上に、彼らには「メールを使えないことが、大多数のメールを使える者たちに、多大な迷惑(膨大な無駄な作業や時間を使わせている)を与えている」という、
その自覚が、絶望的にない――
のです。
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