デジタル時代の敬老精神 〜シニア活用の心構えとは:世界を「数字」で回してみよう(57) 働き方改革(16)(9/11 ページ)
今回は「シニアの活用」についてです。やたらとずっと働きたがるシニアに働いてもらうことは、労働力の点から見ればよい施策のはずです。ただし、そこにはどうしても乗り越えなくてはならない壁が存在します。シニアの「ITリテラシー」です。
それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。
【1】政府が主導する「働き方改革」の項目の一つである、「シニア活用」に関して、これまでとは異なり、前半では「シニア自身」の視点から、後半では「定年制の意義」からアプローチを試みました。
【2】シニアのITリテラシー不足が、町内会の負荷を重くし続けている事実を、江端の経験談から語り、そして、そのITリテラシー不足による他者への迷惑に対して、シニアが完全に無自覚であることを明らかにしました。
【3】そして、統計データを使って、この「町内会のシニア問題」が、全国各地で発生しているという江端仮説を使って明かにした上で、高齢を理由に「メール、パソコンが使えない」と言って逃げることが許されないシニアもいる、という江端の主張を展開しました。
【4】上記に合わせて、現在の町内会の危機的状況の発生プロセスを、エンジニアリングアプローチで説明しました。基本的には、ITサービスが地域サービスを形骸化させ、「地縁」という概念が消えて、「核個人」という時代に突入しているという事実を説明しました。
【5】定年制度の「定年退職」という言葉はまやかしであり、正確には「定年解雇」と呼ぶべきであることと、この制度が、日本人全員の合意に基づく労働者の社会的安楽死制度であることを説明しました。
【6】定年制度の定年年齢は、平均寿命と連動して設定されており、そのメインの目的は、年金制度の破綻回避にあることを明らかにしました。
【7】さらに、シニアの求人が、求人市場全体の0.8%程度しかないことと、また、ジェネラリストよりもスペシャリスト(特に技術系)の再雇用(×転職)が、シニア市場では圧倒的に有利であることを、データで示しました。
以上です。
メール利用率の現在と未来
さて、最後に、簡単な机上シミュレーションをご覧頂きたいと思います。
これは、前半で示した、我が国の年齢別のメール利用率(現在)と、30年後(予測)を示す図です。
前半で、ITを忌避する(特にメールを使わない)シニアのために、町内会が危機的状態になっていることをお話しました。それなら、この問題は、そのようなシニアが消滅することによって、問題は時間とともに解決していくようにも思えます。
ところが、まだ懸案が残っています。私は、これを「17%の闇」と名付けているものです。メールの普及から40年を経ても、現時点で、最も利用率の高い40代であっても、なお17%の人間が、メールを使えていないという事実です。
ここで言う「メールを使えない」とは、「文字入力ができない」と同義と考えて良いと思います。つまりキーボードを使った文字入力ができない(IME(Input Method Editor)が使えない)ということです。
これは、現代においては「エンピツの使い方を知らない」と同じことです。
日本の教育、文化、経済を支えてきたのは、識字率99.0%の実績であり、それは、義務教育過程の大きな正解の一つです。故に、我が国は、IMEの利用率も99.0%にしなければならないのですが、いまひとつ、我が国のIT教育の方針は的を外しているような気がするのです ―― 例えば、あのプログラミング教育とかいう謎のカリキュラムです(著者のブログ)
私は、この「17%の闇」が、今後も面倒な問題として残り続けていくのではないかと本気で心配しています。なにしろ、我が国は、現職の大臣が、この問題のど真ん中にいるような国ですから(著者のブログ)。
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