清華紫光集団がSMICのCEOを引き抜きか、DRAM強化で:共同CEOのHaijun Zhao氏(2/2 ページ)
中国のほぼ全ての半導体資産を管理する国有持ち株会社Tsinghua Unigroup(清華紫光集団、以下Tsinghua)は、中国国内のDRAM業界を再構築すべく、SMIC(Semiconductor Manufacturing International Corporation)の共同CEO(最高経営責任者)であるHaijun Zhao氏を引き抜く考えのようだ。
半導体投資、まだ見えぬ成果
Tsinghuaは、中国最大の半導体メーカーであり、スマートフォン向けチップ市場では世界第3位の座を獲得している。同社は最近、半導体設計やメモリ、組み立て、テストなどを手掛けるメーカーを何社も買収している。例えば、Spreadtrum(2018年にRDAと合併し、社名を「Unisoc」に変更)もそのうちの1社だ。
Tsinghuaは、SMICの株主の規模としては、第1位のDatang Telecomと第2位のChina National IC Industry Investment Fundに次ぐ、第3位につけている。
Tsinghuaは、中国の未熟なメモリ産業に助け舟を出すことができるZhao氏の存在を必要としている。
同社は2016年に、合計で約1000億米ドルを投じ、中国の武漢と南京、成都においてメモリ工場の建設に着手した。2017年初めには、主に3D NANDフラッシュメモリとDRAMメモリを製造するための基盤となる工場を南京に建設すべく、300億米ドルを投じている。
しかし、南京工場はまだ完成していない。中国の現地の報道によると、この南京工場が完成すれば、1カ月当たり10万枚の12インチウエハーを処理することが可能な、中国最大の半導体製造工場になるという。
Sinaが2019年3月9日に発表した記事によると、Tsinghuaは最近、半導体生産を拡大すべく、業界の著名な経営幹部を何人も迎え入れているという。例えば、台湾の専業ファウンドリーUMC(United Microelectronics Corporation)の前CEOだったShih-Wei Sun氏や、ZTEの前エグゼクティブバイスプレジデントZeng Xuezhong氏、HiSiliconで以前にCSO(最高戦略責任者)を務めていたSteve Chu氏などが挙げられる。
Sinaの報道記事によると、Zhao氏は近々、SMICの共同CEOを辞任し、Tsinghuaに加わるとみられているが、Tsinghuaは、この件に関するコメントを拒否しているという。
米国の市場調査会社であるInternational Business Strategies(IBS)の創設者であるHandel Jones氏は、EE Timesのインタビューの中で、「Tsinghuaが南京に建設を予定していたDRAM工場は、現在のところ休止状態にあるという。同社に最も必要なのは、DRAM IPにアクセスできるようにすることだ」と述べている。
またTsinghuaは、武漢に拠点を置くDRAMのベンチャー企業XMCにも、資金を出資しているという。
Jones氏は、「当社の予測では、DRAM市場は2019年に落ち込みを見せるものの、2020年には成長に転じる見込みだ。しかし、なぜ中国が、100億米ドルを超える資金を新しいDRAM工場の建設に投じるのかが、私には理解できない」と述べている。
中国はこれまで、半導体輸入の膨大な赤字を相殺すべく、国内の半導体製造工場に数十億米ドルを投じてきたが、今のところほとんど成果を得られていない。中国は、AppleからZTEに至るまで、幅広いメーカーに向けて電子機器の組み立てを担う、世界最大の半導体市場である。
Innotron MemoryとFujian Jin Hua Integrated Circuit(JHICC)は2018年に、メモリ生産量を増大させるための取り組みを進めていたが、結果的に行き詰まりをみせている。
Jones氏は、「Innotron Memoryでは開発が進んでいるが、この先の道のりはまだ長いだろう」と述べる。
米国メモリ業界の経営幹部は、匿名を条件にインタビューに応じ、「Innotron Memoryは、最初の試作品を完成させているが、歩留まりが非常に低い上、レガシーDRAMをターゲットとしている」と述べている。Jones氏は、「一方JHICCは、効率的に成果を上げているようだ」と述べる。
UMCは2018年末に、米国政府が同社への機器供給を禁止する命令を発表したことを受け、JHICCとの研究開発プロジェクトを見送っている。
JHICCの当初の計画では、UMCに対し、全ての基本的技術を提供するよう要請していたため、JHICCはUMCの撤退を受け、独立する選択肢しか残されなかった。しかし、それは不可能だったため、JHICCは壊滅状態に陥った。
Jones氏は、「JHICCは、販売を検討していたウエハー処理装置の他、新しい所有者を必要とするビルなども保有している」と指摘する。
米国メモリ業界の情報筋は、「Tsinghuaは、JHICCが崩壊したことにより、中国のメモリメーカー各社の大規模な統合を推進するというチャンスを得ることになった。もしTsinghuaが勢いづけば、中央政府を説得してInnotron MemoryとWuhan/Tsinghuaの合併を進める可能性がある」と推測している。
こうした中、中国のメモリメーカーは、控えめな姿勢を維持しているようだ。
米国の市場調査会社IC Insightsでプレジデントを務めるBill McClean氏は、「Innotron Memoryは、社名を『CXMT(ChangXin Memory Technologies)』に変更したと聞いている。しかし、InnotronまたはCXMTのいずれの社名のWebサイトも見つけることができない。Web上でCXMTについて唯一表示された検索結果は、SNSのページだけだった」と述べている。
SMICは、Zhao氏とLiang氏に対して、TSMCやSamsung Electronicsなどの大手ライバルメーカーに肩を並べるようなプロセス技術を確保できるよう、サポートしてほしいと考えている。このような計画は現在のところ、ほとんど結果を出せていない。TSMCやSamsungが最先端の7nmプロセスを実現している一方で、SMICは何年もの間、28nmプロセスで行き詰まっている。
Liang氏は2017年に、SMICのCEOに就任する際に、SMICの技術的な飛躍を実現することを期待されていた。同氏は、TSMCにおいて最先端のプロセス技術開発に貢献し、その後、Samsungでも同様の成果を上げた人物だ。
Liang氏がSamsungに引き抜かれた後、TSMCは2015年8月に、同氏に対して台湾で訴訟を起こし、勝訴している。裁判所はLiang氏に対し、Samsungでの勤務を1年間禁止した。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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