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5Gが開花する「令和」時代、日本の“IoT維新”に期待大山聡の業界スコープ(16)(2/2 ページ)

2019年4月1日、「平成」の次の元号が「令和」に決定したと発表され、2019年5月1日から「令和」時代がスタートする。半導体/エレクトロニクス業界に身を置く筆者としては、令和時代は5G(第5世代移動通信)が普及し始めるタイミングであり、これによってわれわれの生活に大きな変化が起こり得る時代になるのではではないか、という気がしている。

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「スマート農業」のカギを握る5G

 今までコンピュータとは無縁だった「モノ」をコンピュータで制御しよう、というIoTの実現性を高めることが5Gの狙いでもある。

 小説やドラマで人気を集めた「下町ロケット」には無人運転トラクターが登場するが、これに必要な位置情報や運転支援技術も、5Gを活用することで実用性が高まることは間違いないだろう。トラクターだけでなく、農業にIoTやAIを活用する「スマート農業」を普及させるためにも5Gは重要なカギを握っている。労働人口が減り続けている農業を活性化するチャンス到来、と言っても過言ではない。


スマート農業のイメージ (クリックで拡大) 出典:農林水産省「スマート農業の実現に向けた取組と今後の展開方向について」資料内より

 またトラクターに活用できる技術を路線バスに応用すれば、無人運転バスの運行が可能となる。最終的には無人運転タクシーにまで応用したいところだが、運行経路の決まっているバスで実績を積み上げてから、というのが現実的だろう。バスの無人化を目指した自動運転の実証実験は、既に国内外でさまざまな企業が行っている。過疎地における路線バス事業の継続は、どこの地方自治体にとっても悩ましい問題だと聞くが、運転手不要のバスを運行できるとなれば、状況が一変する可能性が高い。

 過疎地においては医療施設の不足も問題視されているが、5Gによって遠隔診断、治療が可能になれば、この問題も大きく改善される。入院設備はどうするのか、投薬はどうするのかなど、5Gだけでは解決できない課題は残るだろうが、「そこに医者がいなくてもできること」が増えることは間違いない。

 5Gがもたらすメリットや利便性が期待できるのは、農業や過疎地に限ったことではないが、国内において長年にわたって有効な打開策が見つからなかった課題に一石を投じることができることは注目に値するだろう。

 この連載でも何度か主張させていただいたが、経済活動を営む産業には、グローバル市場を対象とする「G型」産業と、特定の地域を対象とする「L型」産業があり、地域経済を活性化させるためにはL型産業に注力することが不可欠である(関連記事:「G」と「L」で考える発展途上の産業エレクトロニクス市場)。半導体デバイスやPC、スマホのように、どこで生産されようと関係ない、世界中に安く大量に供給することが最優先されるG型産業は、シェアを勝ち取った企業に利益が蓄積されることはあっても、特定の地域に根付くとは限らない。コスト競争に優れた生産拠点を探し求めた結果、生産受託を失注した工場が大打撃を受ける可能性もあるのだ。G型産業は、特定地域の経済活動とは切り離して考えた方が無難である。

「攻める農業」の実現を

 一方のL型産業には、農林水産業のように特定の地域で生産(収獲)されるL型生産と、交通、医療、販売、流通、飲食サービス、教育、金融、情報通信のように特定の地域でのサービスを対象としたL型消費がある。

 実はL型生産の代表例である農産物は、G型とは無関係と言い切ることができない。海外から割安品が輸入されると打撃を受ける、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)は脅威だ、という主張は、G型経済に巻き込まれたくない農業従事者の本音だろう。

 しかし、そのような環境を避けて通れない以上、それなりの対抗策が必要である。割高かもしれないが、味や品質で差別化を強調する、さらにはスマート農業を積極的に活用することで生産効率や品質の向上に努めるなど、L型生産としての強みを追求することが重要である。単なる価格競争に巻き込まれることなく、付加価値を主張して受け入れられる努力は、日本における「ものづくり」戦略のあるべき姿といえよう。農業従事者には、5Gをベースとしたスマート農業で、TPPに臆することなく「攻める農業」を実現してもらいたいと願っている。

 L型消費はその地域に密着したサービス業が中心なので、G型産業と競合することは想定しなくて良さそうだ。ここで重要なのは、その地域を活性化させるための自治体の戦略である。経済活動を行うのはサービスを提供する企業だが、それらの企業をサポートする自治体の戦略がカギを握っている。どのような街づくりをしたいのか、その地域の特徴や歴史をどのように生かしたいのか、それを踏まえてどのような産業に注力すべきなのか。5Gを意識したインフラ戦略、と言い換えても良いかもしれない。

日本の“IoT維新”に期待

 「IoTを活用すべし」という掛け声はかれこれ数年前から聞かれるが、まだ十分に活用されているとは言い難い。特に日本は海外に比べてIoT活用が遅れている、とも言われている。あまり好ましくない状況ではあるが、5Gの普及がIoTの活用を加速させる可能性は極めて高く、日本が遅れていたとしても、5Gのサービス開始で十分巻き返すことも考えられる。そして、それには地方自治体の街づくりが大きな役割を担っているはずである。

 冒頭に「令和時代は5Gが普及し始めるタイミング」と強調させていただいたのは、日本における“IoT維新”が始まることを期待しているからであり、またそうであるべきだと筆者は思っている。これからは地方自治体の方々とこのような議論を積極的に行うことを、令和元年における自身の抱負とさせていただきたい。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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