正体不明の異物はあるのか? 最新サーバの搭載チップ事情:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(34)(3/3 ページ)
今回は、一部で異物(=正体不明のハードウェア)が搭載されているとの情報が流れたサーバ製品をいくつか分解し、チップ内部まで解析した結果を紹介していく。
チップの地域・機能比率を分析
図4は、全44チップの分布をまとめたものである。プロセッサとメモリを除いており、プロセッサとメモリを入れると比率は変わる(プロセッサは米国製がほとんど。メモリは韓国製または米国製だ)
図4の左側は、搭載チップメーカーの本拠地をグラフで示したが、圧倒的多数を占める米国のTIだけは、単独で表した。グラフの通り、約7割がTI製だ。それ以外にも米国メーカーのチップが多数使われる。米国メーカーチップが4分の3を占めているのである。残りは台湾メーカーのPC向けチップがサーバにも活用される。それ以外ではドイツメーカー、オランダメーカーなどが続く。本グラフは機能チップだけであり、受動素子(コンデンサーなど)を含めると日本製も使用される。
サーバと言えばプロセッサとメモリ、と思いがちだが、実際にはメインボード上には多くのアナログチップ、アナログとデジタルと混載したミックスドシグナルチップが多くを占めている。搭載チップの4分の3はアナログチップだ。さらにクロック系、センサー(温度や電圧、電流を検知する)、ドライバIC、パワー半導体などが並ぶ。
デジタルプロセッサは日々、プロセスの微細化に向かい、コア数を増やして動作周波数を上げ、能力を高めている。またメモリも同様に先端プロセスを用い、記憶密度を上げ、動作周波数を上げ、転送ビット幅を広げている。ここには競争があるが、アナログもそれらプロセッサ、メモリの機能、性能を引き出すために日々使用が広がっている。
さて、今回、分析結果を紹介した以上のケースでは、中国製チップの搭載数はゼロであった!!
現在、弊社ではスーパーコンピュータ(=コンピューターの性能ランキング「TOP500」の上位にランクインしているサーバーの1つ)のラックも1台分解し、解析しているところ。詳細はここには記さないが、大きな特長はアナログチップ(電源系やタイミング系)が数多く使われていることだ。
デジタルの使用が広がれば広がるほど、アナログの使用も増えるといえそうだ(本当は細かく説明したいところだが今回は割愛する)
スマートフォンも同様だ。メインのプロセッサはデジタルだが取り囲むように電源IC、オーディオチップとトランシーバー、センサー、パワーとデジタル以外のチップ搭載が増えている。デジタルは1つ、アナログは複数。パワーとセンサーはさらに搭載数が多い。
実機ベースで事実確認を継続
いよいよ第5世代移動通信(5G)対応端末が市場に出回り始めた。当社では早速、海外から複数の5G対応端末を入手した。今夏に向けて続々と5G対応端末を分解していく予定だ。その際に機能分布やメーカー国籍別分布、デバイスカテゴリーなどに注目していく。スマートフォンもサーバも、クルマも……、チップを搭載するあらゆるもので競争軸と協調軸がどこにあるかを明確にしていくべく、実機ベースでの事実確認に注力したい。
SupermicroやHuaweiなどの機器に、いかにもハードウェアの異物が入っているような情報が流れて、その情報に対し否定も肯定もなされないまま月日が流れている。
異物、すなわち正体不明のチップに出会いたいという気持ちもありながらわれわれは日々、分解とチップ開封による事実確認を続けている。もしも異物らしきものを確認された方がいれば、ぜひ知らせてほしい。
筆者Profile
清水洋治(しみず ひろはる)/技術コンサルタント
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- マイニングキットの内部分析で見えてくること
今回は、最先端プロセスを使用した仮想通貨のマイニング専用チップを搭載するマイニングキットの内部を詳しく観察していく。その内部はある部分でスーパーコンピュータをも上回る規模を備えており、決して無視できる存在でないことが分かる――。 - マイコンを取り巻く“東西南北”にみるIoT時代のマイコンビジネスの在り方
今回は、マイコンメーカー各社が販売する開発評価ボードを詳しく見ていく。IoT(モノのインターネット)の時代を迎えた今、マイコン、そして開発評価ボードに何が求められているのかを考えたい。 - 2019年も大注目! 出そろい始めた「エッジAIプロセッサ」の現在地とこれから
2018年に登場したスマートフォンのプロセッサの多くにAI機能(機械学習)を処理するアクセラレーターが搭載された。そうしたAIアクセラレーターを分析していくと、プロセッサに大きな進化をもたらせたことが分かる。こうした進化は今後も続く見通しで、2019年もAIプロセッサに大注目だ。 - iPhone XRとiPad Proの中身に透かし見る最新半導体トレンド
今回は2018年10〜11月に発売されたAppleの2つの新製品「iPhone XR」と「iPad Pro」の中身を詳しく見ていこう。2機種の他、9月発売の「iPhone XS/同XS Max」とも比較しながら、最新の半導体トレンドを探っていこう。 - 「iPhone XS」を解剖 ―― iPhone Xから変わった部品配置
今回から、2018年9〜10月に発売されたAppleの新型スマートフォンの内部の様子を紹介していこう。「iPhone XS」では、L字型の異形電池を搭載した他、前モデルの「iPhone X」から部品配置が変わっていたりする。 - 「XPERIA XZ2 Premium」にみる、スマートフォンの主戦場“カメラ周り”最新動向
2基のカメラを搭載する「デュアルカメラ・スマートフォン」が当たり前になりつつある。今回は、ソニーとして初めてデュアルカメラを搭載したスマートフォン「XPERIA XZ2 Premium」の内部を観察していく。