日本が捨てたお家芸、「軽薄短小」で半導体技術を磨く中国:製品分解で探るアジアの新トレンド(38)(3/3 ページ)
かつて、「軽い、薄い、短い、小さい」と言えば、日本の機器メーカーの得意技だった。この「軽薄短小」は、半導体技術によって実現されるものであり、また、半導体技術をさらに進化させるカギでもあった。日本がほとんど捨て去った「軽薄短小」は今、中国の半導体技術が磨かれる要素となっている。
「K-TOUCU i9」を分解
図5は、K-TOUCH i9のチップ分布である。左は国籍別(本社所在地)、右は中国チップだけに着目した機能分布である。K-TOUCH i9のほぼ8割は中国および台湾チップで構成されていることが分かる。
ここでは非掲載とするが、弊社レポートでは必ずBOM(Bill of Material)表を載せており、チップの型名、機能などに加え、国籍を明記しているが、本製品では他に米国チップが使われているのみである。しかも、この米国チップも実際には中国製でも台湾製でも置き換えが可能だ。
過半数を占める中国チップの機能分布からは、中国チップが、いかに機能的にバランスが良いかを見て取れる。プロセッサのようなデジタルではHiSiliconやAllwinner Technology、Rockchipらの実力の高さは知られているが、それらのデジタル機能を最大限に活用するためには、アナログやパワー半導体が欠かせない。さらに、オーディオ、電池、センサー、通信のいずれもアナログなしでは動かない。
デジタルだけでなく、アナログ/パワーのチップも、中国半導体メーカーはバランス良くそろえているのである。そして、そうした重要な機能の大部分が、K-TOUCU i9では全て中国チップなのだ。さらに付け加えるならば、デジタルとアナログを1チップ化したミックスドシグナル・チップも中国製となっている。
「軽薄短小」への最短ルートは半導体
今回の分解からも分かるように、中国半導体メーカーは、今や「点」や「線」ではなく、間違いなく「面」を作っている。これはスマートフォンだけでなくドローンやIoT(モノのインターネット)ガジェット、中国製スマートスピーカー、ワイヤレス製品、カーナビゲーションシステムなどの分解でも明らかだ。
「軽薄短小」への最短ルートは、言うまでもなく半導体だ。貪欲に半導体技術の強化を推し進める中国は、さらなる軽薄短小を実現できる最短チケットを持っていることになる。
日本は軽薄短小を捨て(?)、品質や、選択と集中へとフォーカスを変えているが、軽薄短小を追い求めることが、品質をより高める最短ルートの一つ(部品点数の削減や組み合わせのシンプルさ)であるという面を見落としてはならないと、筆者は思う(本件はいずれ、じっくり説明したい)。
わざわざ複雑にして高品質にするか。それとも、シンプルを極めて通常品質とするか。果たしてどちらがメーカーの戦略的に“正しい”のかを、今こそ見直すべきではないだろうか。
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