障害者雇用対策に見る、政府の覚悟と“数字の使い方”:世界を「数字」で回してみよう(58) 働き方改革(17)(6/10 ページ)
今回は、働き方改革のうち「障害者の雇用」に焦点を当てます。障害者雇用にまつわる課題は根が深く、これまで取り上げてきた項目における課題とは、少し異質な気がしています。冷徹にコストのみで考えれば「雇用しない」という結論に至ってしまいがちですが、今回は、それにロジックで反論してみようと思います。
「会社側の義務」から見る政府の戦略
さて、ここからは後半となります。
前述した通り、今回の「働き方改革」の「障害者の就労」のパートに関しては、会社側の義務(法律上の責任)話しか出てきません(下記は前述の図の一部を抜粋)。
ここから、政府の戦略が見て取れます。
まず、障害者の「雇用」が先だ。「雇用」が十分に達成されていない状態で、「障害者の働き方」うんぬんなんぞと言っている場合か ――
ということです。ちなみに、このスタンス、私は好きです*)。
*)打ち合わせをする時に、打ち合わせの内容が決まっていない段階で、先に日時と場所を決めておく、というのは皆さんも使っているメソッドだと思います。
「風が吹けば桶屋がもうかる」というほど簡単な話ではないとは思いますが、それでも、障害者の就労が増えれば、障害者の"障害"が少なくなっていく、とは思っています。
では、この「障害者の『雇用』が先だ」の制度について説明します。これが、障害者雇用率制度というものです。
この制度は、企業/組織に一定数の障害者の雇用義務を負わせる、という制度のことで、(A)法定雇用率、(B)除外率という2つの考え方を組み合わせて運用しています((A)については後述します)。
要するに、企業や組織の理論では、当然のことながら「障害者を社会から分離して、社会活動から除外してしまう方がコストは安い」が働いてしまうからです。ですので、国家は「力付く」でも障害者の雇用を促進させるように、法律で縛るのです。
とはいえ、資本主義における雇用は「需要と供給」と「私的契約」で成立しています。そこに、国家が露骨な干渉を行うことは、その自由主義経済の理念を損なうことになります。ですので、その法律(障害者の雇用の促進等に関する法律 第53条、54条)には、罰則がありません ―― が、アメとムチの考え方に基づく「嫌がらせ」あります。
規定された人数の障害者を雇用していない場合であっても法律は「雇用しろ」とは言いません。「足りない人数分、毎月5万円を納付しろ(納付金)」と言っています。逆に、規定された人数以上を雇用している会社には、「超過雇用人数分、毎月2.7万円で支援してやるぜ(調整金)」と言っています。
もちろん、会社の規模や職種に応じて、この「障害者数」の算出方法や条件は、少しずつ変わってきますが、基本的な考え方はこの通りです。この納付金のお金は、その他の報奨金や調整金としても使用されます。
この納付金と調整金がいくらくらいになっているのかも調べてみましたが、近年、奇妙な傾向が観察されています。
簡単に言うと、法定雇用率が上昇(1.8→2.0)してから、納付金収入が上昇し出しているのです。これは、「障害者を雇用しなくなった」というよりは、「雇用すべき障害者が確保できなくなった」と見ることもできます。
法定雇用率の上昇によって、企業側がラクして雇用できる障害者 ―― 例えば、障害者用の設備投資や、新規の就労ルールを作り運用する必要のない、―― コストのかからない障害者の争奪戦が発生したと考えられます。
つまり、企業がラクをしたまま障害者を雇用するという姿勢に対して、政府は「なめんなよ」と恫喝(どうかつ)して、「企業に対する障害者の受け入れの本気度」を迫っていると思われます。
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