障害者雇用対策に見る、政府の覚悟と“数字の使い方”:世界を「数字」で回してみよう(58) 働き方改革(17)(7/10 ページ)
今回は、働き方改革のうち「障害者の雇用」に焦点を当てます。障害者雇用にまつわる課題は根が深く、これまで取り上げてきた項目における課題とは、少し異質な気がしています。冷徹にコストのみで考えれば「雇用しない」という結論に至ってしまいがちですが、今回は、それにロジックで反論してみようと思います。
「法定雇用率」から見て取れる政府の覚悟
さて、次に「法定雇用率」の内容を見てみます。
この「法定雇用率」ですが、2018年4月からさらに0.2%上昇しています。「障害者雇用を前提としない会社は、潰れても構わん」というくらいの政府の覚悟が見て取れます*)。
*)まあ、そんな中、あの事件「障害者雇用水増し問題(中央省庁の8割にあたる行政機関で、あわせて3460人の障害者雇用が水増しされていた)」が発生したのですから、民間企業の怒りがハンパでなかったのは当然と言えます。この事件については一通り調べたのですが、これを書き出すと、多分、あと連載2回分は必要となりそうですので、この記載については我慢することにします。
さて、問題は、ここに登場する数値(2.0〜2.5%)です。私はエンジニアですので、この数値の拠出根拠と、使用されたデータを明確にしない限り、納得できません。
ではまず、法定雇用率の式を示します。
法定雇用率の式は上記の通りです。「常用労働者」という見なれない用語が出てきますが、これは、現時点において「『今月に引き続き来月も仕事を続けられる』という見込みのある労働者」という理解で良いと思います(1日だけの日雇い労働やアルバイトは含まれない)。また「失業者」は、単なる「失業中」では足りず、「現在進行形で、求職活動をしている人」を言います。
なんで、こんな面倒くさい概念を導入しなければならなかったかを、私なりに考えてみました。
(1)障害者は、就職先の職場環境で実際に働いてみないと、労働を続けられるかどうかが分からない(障害者用のインフラが整備されていない、など)。故に、1日とか1週間で退職せざるを得ない障害者もいるはずであり、このような人を労働者としてカウントするのはズルい。
(2)障害者は、その障害の内容によっては、職種が極めて制限される(就職が難しい)。従って、現在進行形で仕事を一生懸命に探している人は、誰であれ、常用労働者の予備軍としてカウントするべきである。
(3)上記(1)(2)に合わせるには、一般の労働の数と対応させることが、必要である。
では、次に、法定雇用率の算出式そのものの説明と、江端の理解を説明します。
要するに、法定効用率とは、『障害労働者と一般労働者が、同じ条件で雇用されている』ことを示すための「道具概念」です ―― なぜなら「障害労働者が、我が国において、差別なく就労できていることを、どうやって証明するのか」というテーゼには、万人を納得させる解答がないからです。
ただ、厳密に言えば、法定効用率の式は、上記の『障害労働者と一般労働者が、同じ条件で雇用されている』には不十分であると思っています。私は、本来は、下図の赤の枠線の中の2つの式も満されなければならないと思っています。
ですが、障害者の雇用環境と、障害者でない人の雇用環境を、上記の2つの式で厳密に規定してしまったら、私たちが目指すべき世界に近づきにくくなるというジレンマが発生してしまうのも、また事実なのです。
実は、私、厚生労働省のHPを探し回って、あちこちの資料から数値を拾ってきて、上記の式に突っ込んでみたのですが、どうしても2.0〜2.5%の数値が出てこなくて、頭を抱えていました(週末の2日間を、この作業だけで使い果たしてしまいました)。
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