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5GはHuawei抜きで何とかするしかない 座談会【前編】IHSアナリストが読む米中貿易戦争(1/3 ページ)

終息の糸口が見えない米中貿易戦争。IHSマークイットジャパンのアナリスト5人が、米中貿易戦争がエレクトロニクス/半導体業界にもたらす影響について緊急座談会を行った。座談会前編では、5G(第5世代移動通信)とCMOSイメージセンサーを取り上げる。

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 2018年から始まった米中間の貿易戦争は、激化の一途をたどっている。特に今回の貿易戦争は、Huaweiが狙い撃ちにされ、特定の中国半導体メーカーへの製品出荷を禁じ、PCやスマートフォンなどが対象に入った追加関税第4弾の検討が発表されるなど、エレクトロニクス/半導体業界に多大な影響を及ぼす“ハイテク戦争”となっている。

 終息の糸口すら見えない米中貿易戦争は今後、特に日本、米国、中国のエレクトロニクス業界にどのような影響を与える可能性があるのか。市場調査会社のIHSマークイットのアナリスト5人とともに、2019年5月31日、緊急座談会を行った。

 座談会に参加したのは、次の5人である。

  • 南川明氏(日本調査部ディレクター):半導体業界を中心にエレクトロニクス産業全般を担当
  • 前納秀樹氏(コンサルティング・ディレクター):システムLSIを中心にIoT、クラウド、メディア関連エレクトロにクス産業の市場分析/ビジネス分析を担当
  • 李根秀氏(主席アナリスト):機器分解によるデバイスのコスト調査などを担当
  • 大庭光恵氏(シニアアナリスト):主に情報通信分野の市場分析/ビジネス分析を担当
  • 杉山和弘氏(コンサルティングアソシエイトダイレクター/主席アナリスト):半導体/エレクトロニクス産業全般の市場分析/ビジネス分析を担当

 なお、座談会以降も2019年6月半ばまで上記5人のアナリストを継続して取材。その内容を前後編に分けてお届けする。



関税25%では中国は耐えきれない

EE Times Japan編集部(以下、EETJ) 米中の貿易戦争が激しくなっています。早ければ2019年6月末にも、PCやスマートフォンが対象となる追加関税措置の第4弾が発動されます。25%の関税ですが、どう思われますか。


南川明氏

南川明氏 現在の10%では値上がり分を企業が引き受けることで、市場へのインパクトを出さないようにしてきましたよね。でもそれが25%になると、企業側が吸収しきれなくなって、消費者に負担がかかる部分がどうしても出てくる。だから、消費への影響は当然出てきますよ。

 ただ、米国は、自国にとってそれほど大きな影響にはならないようにしています。関税が上がれば税収が増えるわけだから、それを使って、なるべく消費者にインパクトを与えないようなスキームを出そうとしている。だから、米国への直接的なインパクトは思っているほど大きくはないのではないかと考えています。

 一方で中国はそういうわけにはいかないから、もろに悪影響が出ると思います。不利なのは当然、中国側。それで、耐えきれなくなる。それがいつになるかは分からないですが、必ずそういう時期が来るはずです。

前納秀樹氏 中国に打撃を与えつつ、米国側では何とかできそうな数字。それが(関税)25%ってこと?

南川氏 それはちょっと分からないけどね。でも、米国はそういうことを考えているとは思う。

 要は、“落としどころ”をどうするかってことですよね。米国の狙いは中国のハイテク産業をスローダウンさせること。しかも、スローダウンしているということを、米国がモニタリングできるようにしている。WTOに違反しないようにとか、バックドアをつけないようにとか、視察をするだとか、米国はいろいろな要求をしていますが、中国はそれらを受け入れざるを得ない状況です。実際、中国では、国営企業以外の経営者たちが、「米国の要求をつっぱねたままでは、自分たちは生き残れない」と、かなりの危機感を抱いていると聞きます。

杉山和弘氏 工場への投資も抑えられていますしね。半導体業界はキツいですよ。

前納氏 それでなくても、中国以外のアジアに拠点を移す動きが目立ってますからね。米国との貿易戦争はそれに追い打ちをかけるような動きだから。

杉山氏 「中国製造2025」の動きも、今はすごくスローダウンしていますよね。自国内で立ち上げたメモリ会社の開発もどんどん遅れていますし、製造工場も立ち上がらない。装置を(中国向けに)出荷してもらえないといったように、“ガワ(建物)”だけ建てても“中身(装置)”が入らないといった事態になっています。

南川氏 半導体の設計ツールで重要なSynopsysやCadenceのサポートも止められ始めたので、中国は今後、半導体の設計も困難になることになります。製造装置だけでなく設計も出来なくなると、中国製造2025は大幅にスローダウンすることになります。中国政府はいよいよ待ったなしの所まで追い込まれてきました。

EETJ 以前のインタビューで、「中国製造2025の動きがスローダウンすることは、市場の需給バランスという観点では、半導体業界にとってよいことだ」とおっしゃっていました(関連記事:「相当厳しい2019年前半、米中摩擦激化も」)。

南川氏 特にメモリ業界にとっては、とてもよいことだと思いますね。以前のペースで中国の投資が続いていたら、2020年や2021年には、とんでもない供給過剰になっていた可能性がありますから。それが遠のいたことは、少なくとも業界にとってはよいことでしょうね。

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