相当厳しい2019年前半、米中摩擦激化も:IHSアナリスト「未来展望」(13) 2019年の半導体業界を読む(1)(2/2 ページ)
2018年、過去最高の売上高を記録した半導体市場。一方で、米中間では貿易摩擦が勃発し、その影響は半導体業界にも及んでいる。2019年のエレクトロニクス業界はどうなるのかを、IHSマークイットのアナリスト4人が予測する。まずは、2019年の業界全体について取り上げる。
激化の一途? 米中摩擦
EETJ 米中貿易摩擦の今後についてはどう見ていますか。
南川氏 米政府の最大の狙いは、中国製造2025をスローダウンさせ、中国が世界一の経済大国、軍事大国になるのをできる限り食い止めることだ。国家安全保障上の問題が懸念されているからだ。もちろん、この貿易摩擦で影響を受けている米国メーカーもある。ただ、安全保障上の問題の方がより重大だと米政府は考えている。そのため、貿易摩擦はより一層、激しさを増すだろう。
EETJ 米国では今後、HuaweiやZTEの機器の使用を禁止する動きになっています。
南川氏 米国がまず止めたいのは、中国の半導体育成だ。中国の半導体自給率は現在約10%だが、それを2025年までに70%にまで引き上げようとしている。現実的に考えれば相当難しい目標ではある。とはいえ、それをなるべく阻止したいのが米国の考えだ。
現在、中国半導体メーカーの設計力はかなり高くなっている。そのため、今後は“製造できないように”圧力をかける可能性がある。2018年10月に、米商務省が中国DRAMメーカーに製造設備を輸出することを禁止したが、そのような動きが2019年は加速するだろう。
さらに米政府は、日本の製造装置メーカーと材料メーカーに対しても、先端の材料と装置は中国に輸出しないよう要求する可能性もある。半導体の製造装置や製造技術については、中国はまだまだ弱い。ASMLの他、米国と日本のメーカーが依然として圧倒的に強いのが現状だ。日米から製造装置を入手できなければ、中国は、国内での製造技術の発展や蓄積は望めなくなるだろう。
EETJ 中国側も対抗策は打ち出してくるでしょうか。
南川氏 抵抗はするだろうが、恐らくどうすることもできないのではないか。中国は現在、国内で使用する半導体の約9割を輸入しているが、そのうち半分は米国メーカーのものだ。それを止められたら中国はなすすべがない。米国の要求をのむしかないというのが現実だろう。
今後は、1980年代や1990年代に起きた日米の半導体貿易摩擦のように、米国は、米国の半導体を購入し続けるよう中国に強要することが予想される。
こうした背景から、2019年は、中国製造2025の動きは確実にスローダウンするだろう。ただし、これは、半導体業界全体にとってはよいことだ。中国製造2025に向けて中国が膨大な投資を進める中、われわれは『こうした投資が続けば2020年くらいからメモリなどの需給バランスが危うくなるのではないか』と懸念していた。だが、中国の投資のペースが減速すれば、メモリの過剰供給なども解消されていくだろう。半導体業界全体として、2019年後半から2020年にかけては、回復基調に向かう分野も多くなるのではないか。
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