5GはHuawei抜きで何とかするしかない 座談会【前編】:IHSアナリストが読む米中貿易戦争(3/3 ページ)
終息の糸口が見えない米中貿易戦争。IHSマークイットジャパンのアナリスト5人が、米中貿易戦争がエレクトロニクス/半導体業界にもたらす影響について緊急座談会を行った。座談会前編では、5G(第5世代移動通信)とCMOSイメージセンサーを取り上げる。
イメージセンサーでは中国勢が台頭、ソニーへの影響は
南川氏 CMOSイメージセンサー(以下、CIS)への影響はどう?
李根秀氏 CISだけじゃなく、Huaweiの端末には日系メーカーの部品も結構搭載されてるんですよね。一番影響が大きくなってしまったのがCISです。
パナソニックは2019年5月下旬に、Huaweiとの取引において、米国の輸出管理法令に違反する取引がないかを精査すると発表した後、違反はなかったので取引を継続すると発表しました。パナソニックよりも影響が大きいと思われるのがソニーです。あとは、村田製作所など、フィルターを含めた電子部品メーカーだとみています。
一方で、スマートフォンでは複数のカメラを搭載する多眼化がトレンドになっています(関連記事:「多眼化が進むスマホ、イメージセンサー市場はレッドオーシャンに?」)。このトレンドをけん引したのがHuaweiだというのは、何とも皮肉ですよね。スマートフォン1台につき、カメラが3〜4個搭載される機種も出てきており、13MピクセルのCISを搭載しているモノもあります。今は、BOM(Bill of Material)コストがCISだけで4〜5米ドル、カメラにすると軽く10米ドルは超えてしまう。
ソニーは現時点(2019年5月31日時点)では、Huaweiに関するコメントを出していませんが、相当数のCISをHuaweiに出荷しているので、直近での影響は免れないと思われます。
ソニーはCISの生産能力を、現在の月産10万枚から15万枚に増やすことを公表しています。設備投資に、2018年度から2020年度の3年間で1兆円を投入するとも言っています。このため、中長期的に見ればビジネスへの影響は少ないと思われますが、直近では投資の勢いが少し減速すると、われわれは見ています。
EETJ 中国のCISメーカーというのは、どうなっているのでしょうか。
李氏 中国のCIS市場について、最近もいろいろと調査を行ってきましたが、中国のイメージセンサーメーカーの勢いが、一連のHuawei問題をきっかけに加速するのではないかと考えています。具体的には、XMCとHIDM(Huaian Imaging Device Manufacturer)の2社。これが、中国では目玉企業になってくる。というのは、中国政府から特別に目をかけてもらってるんですね。つまり、資金の面で相当優遇されてイメージセンサーを開発しています。
中国との取引を禁止するということは、中国側から見れば、自国の発展を妨害するような動きが米国や日本でも起きているということです。部品を海外から調達できないのであれば、そこに集中的に投資して自分たちで製造する、いわゆる自前主義をどんどん進めていこうという発想になっていくと考えられます。
さらに、CISの世界も成熟してきています。5年前は極めてハイエンドだった10Mピクセル、13MピクセルのCISも、技術的に優位性がなくなってきて、5年後には汎用品に近いモノになっている可能性もある。
前納氏 そうすると、OmniVision Technologies(以下、OmniVision)*)の位置付けは、どうなるの?
*)OmniVision Technologiesは、中国投資会社が買収した。
李氏 OmniVisionも重要なメーカーになると思いますね。中国のファンドがついているし、中国政府の意向を受けるメーカーになるのでは。OmniVisionはファブレスですから、XMCとHIDMと連携して、中国国内でイメージセンサーを量産するようになっていく可能性も考えられます。長期的には、これら3社のイメージセンサー設計能力が飛躍的に上がっていくのではないかと、戦々恐々としています。
(後編に続く)
金融機関様向け無料セミナーを開催
IHS Markit テクノロジー部門では、国内金融機関様を対象とした特別無料セミナー「半導体市場展望〜米中貿易摩擦は長期戦に突入」を都内で近日開催します(複数回予定)。講師はテクノロジー産業を代表するアナリストの一人である南川明ディレクターが務めます。開催日程や会場など詳細情報は同社セミナー事務局(mitsuhiro.kato@ihsmarkit.com)まで。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- Huaweiへの輸出禁止措置で最も痛手を負うのは米国?
Huaweiは米国の半導体チップを始めとするさまざまな部品の供給を止められることで、短期、中期的には深刻な影響を受けることになるだろう。しかし、アナリストの中には、「長期的に見ると、中国が自立への取り組みを強化し、欧州やアジアなどに拠点を置くサプライヤーからの部品調達を重視していけば、最も強い痛みを感じることになるのは確実に米国のサプライヤーの方だ」とする見方もある。 - 米中が覇権を争う今、日本企業は中国と提携するチャンス
米国と中国の通信インフラを巡る覇権争いが過熱している。そうした中で、日本企業は、米国の方針に追随するしかないのだろうか。 - 新たな世界ハイテク戦争の構図 ―― 米国、中国、Huaweiの3者のにらみ合い
米中におけるハイテク戦争では、2018年末以降、Huaweiが台風の目となっている。しかし、筆者には、3つの疑問がある。本稿では、3つの疑問について論じるとともに、世界のハイテク戦争が、米中二国間の単純な対立ではなく、米国、中国、Huawei3者のにらみ合いの構図になっていることを示す。 - 米中ハイテク戦争の背後に潜む法律バトル
激化の一途をたどる米中ハイテク戦争。実は、これは“法律バトル”でもある。本稿では、中国の「国家情報法」および米国の「国防権限法2019」を取り上げ、これら2つがどのようにハイテク戦争に関わっているかを解説する。 - 相当厳しい2019年前半、米中摩擦激化も
2018年、過去最高の売上高を記録した半導体市場。一方で、米中間では貿易摩擦が勃発し、その影響は半導体業界にも及んでいる。2019年のエレクトロニクス業界はどうなるのかを、IHSマークイットのアナリスト4人が予測する。まずは、2019年の業界全体について取り上げる。 - 半導体市場の成長をけん引する5G、端末向け部品では日本に追い風
IHSマークイットジャパンのアナリストが、エレクトロニクス業界の2019年を予測するシリーズの第3回。今回は、5G(第5世代移動通信)とエンタープライズネットワークを取り上げる。