5Gではデバイスのテストも変わる、「OTA」が重要に:半導体/部品メーカーの新たな課題(2/2 ページ)
5G(第5世代移動通信)実現に向けて高周波半導体デバイスを開発、供給するメーカーが直面している課題の一つがテストだ。今後のテストでは「OTA(Over-The-Air)」が鍵になるだろう。
巨大な電波暗箱は要らない
エンジニアがOTAテストソリューションについて話す時、ソリューションに必要な要素として必ず挙がるのが電波暗箱だ。外界からの干渉が極めて低いRF環境を提供する電波暗箱(無響、CATR、または反響タイプ)は、特性評価、設計検証、コンプライアンス、コンフォーマンステストについて、設計が全ての性能および規制要件を十分な余裕と再現性を持って満たしていることを確実する。その一方で、量産時には従来の電波暗箱は生産現場の多くのスペースを占めるだけでなく、デバイスハンドラーの搬送が難しくなり、テストコストをいたずらに増大させてしまう可能性がある。
こういった問題に対処するために、アンテナが統合された小型のOTA対応ICソケットが市販され始めている。これにより、半導体デバイスのOTAテストを電波暗箱よりもはるかに小型な装置で行えるようになっている。
ソケットに実装されている計測用アンテナは、DUTのICから数センチメートル離れているが、各アンテナ素子の遠方界計測には十分な距離だ。小型のソケットが活用できることで、同時測定を行えるようにしてテストスループットの高速化を図れるだけでなく、OTAテスト時の懸念事項の一つである信号電力損失も最小化できる。ただし、計測用アンテナとDUTとの間隔が数センチメートルしかないために、一般的には10cm以上の間隔を必要とするビームフォーミング適用状態での計測が困難であることには留意されたい。
一方、ビームフォーミングを前提に遠距離での計測を行う場合にも課題が存在する。28GHzでは、10cmの同軸ケーブルを通過すると約1dB減衰する。一方、OTAテストの場合、10cmの自由空間伝搬によって30dB減衰する(5dB利得アンテナ使用時)
受信側のIP3(3次インターセプトポイント)測定を考える場合、OTAテストでは、同軸ケーブルで接続する場合よりも、送信アンテナにおいて30dB高い出力に対応するテストシステムが必要となる。これは、電波暗箱を用いたOTAテストの課題となる。一方で、計測用アンテナとDUTとの間の距離が数センチメートルのOTAソケットを用いる場合、必要な送信電力の要件はそれほど重大にはならないだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 5G用通信半導体がボトルネックになる時代
“AppleとQualcommの和解”から、5G用通信半導体に関わるさまざまな事情が明らかになってきた。結論を一言でいえば、“最先端の5G通信半導体(の特許)がボトルネックになる時代が到来した”ということになる。本稿では、その詳細を論じる。 - Apple、Intelのモデム事業買収で交渉継続か
Appleが、Intelの一部のモデムチップ事業を買収するための交渉を進めている、と2019年6月11日、技術ニュースサイトThe Informationが報道した。これを受けて、「Appleは、『iPhone』をはじめ、セルラー接続機能を搭載する自社製品向けのモデムデバイスを独自開発すべく、基盤を構築しようとしているのではないか」とする臆測が急激に飛び交うことになりそうだ。 - 5Gのその次へ、日欧共同プロジェクト「ThoR」とは?
5G(第5世代移動通信システム)の商用サービス実現が2020年に迫る中、5Gのさらに次の世代となる「Beyond 5G」の研究も始まっている。日本と欧州の産学官が共同で研究を進めるプロジェクト「ThoR(ソー)」について、プロジェクトリーダーを務める早稲田大学理工学術院教授の川西哲也氏が、2019年5月29〜31日に東京ビッグサイトで開催された「ワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP)2019」で、その研究内容について説明した。 - 5Gを活用する測位、低遅延でサブメートル級の精度も
5G(第5世代移動通信)を活用した測位が注目されている。3GPPリリース16では、高精度の位置情報サービスを安価に、どこにでも、高い信頼性で提供することを約束されている。新しい信号特性をさまざまな非セルラー技術と組み合わせて活用することによって、堅ろうで信頼性が高く、多彩な形式のハイブリッド測位が可能になる。 - 5G向けミリ波帯フェーズドアレイ無線機を開発
東京工業大学の岡田健一教授とNECは、5G(第5世代移動通信)システムに向けたミリ波帯フェーズドアレイ無線機を共同で開発した。 - 「5Gはビジネスモデル構築の段階に」 ドコモ講演
NTTドコモの執行役員で5G(第5世代移動通信)イノベーション推進室室長の中村武宏氏は2019年4月12日、東京都内で開催された「Keysight 5G Sumimit 2019」のなかで、「5Gのリアルと未来」と題した基調講演を行った。中村氏は、「世界的にも5Gの商用化が前倒しされており、2019年から多数の国・都市で5G商用化が始まる。ドコモとしても、次のフェーズへ進まなければならない」と語り、商用化に向けた取り組みや今後の展望を説明した。