「光トランシーバー」は光伝送技術の凝縮:光伝送技術を知る(7) 光トランシーバー徹底解説(1)(4/4 ページ)
今回から、光トランシーバーについて解説する。データセンター、コンピュータや工場内ネットワークで使用される80km程度以下の中短距離光リンクを中心に、ストレージ、ワイヤレスやアクセス通信ネットワークなど、多様なアプリケーションで使用されている光トランシーバーを紹介する。
光トランシーバーの実際
装置やシステム設計を行いForm Factorとインタフェースが決定した後は、いよいよ光トランシーバーを調達する段階となる。トランシーバーの選定では、仕様書を入手して検討することが多いかと思われる。
また、しばらく運用していると故障が起こることもある。故障原因が報告されて初めて、仕様書を見ることになるかもしれない。不良の症状や原因、再発防止策について、仕様書に書かれた用語で報告を受けたり、逆にエンドユーザーに報告したりする場合もあるだろう。光トランシーバーの仕様書には固有の用語や定義があるのでそれについて解説する。アイマスクマージンや消光比などの用語と定義、意味などに関しできるだけ分かりやすく書きたいと考えている。
光トランシーバーは、装置ベンダーから購入したり供給されたりすることもある。図6はBrocadeのFibre Channel Switch 「G620」のProduct Briefに書かれたSpecificationsの一項目である。これによれば、光トランシーバーにはBrocadeの「SFP+」を使用することが求められている。装置を期待通りに正常動作させるには、装置ベンダーが性能や信頼性を確認および保証した、いわゆる認定光トランシーバーの使用を求められることがある。これは、特別なことではない。
装置ベンダーからではなく、トランシーバーベンダーや市場から調達することも多いだろう。しかし、そういったケースでは光トランシーバーのトラブルを時々耳にする。その主な要因は互換性と特性変化(劣化)である。互換性の問題は光トランシーバーだけではなく、無線などさまざまな接続性に共通したものだが、実は光伝送固有の問題もある。
無線に関しては基準認証制度などがあるが、残念ながら光インタフェースに関しては認証制度がない。そのため、ユーザーが調達する場合は慎重な選定と認定が必要になるのだ。
もちろん、基本的に、光伝送の理論やレーザーの性質を理解して設計されていれば、相互接続に関して大きな問題は起こらないように、規格化が行われている。とはいえ、100%互換性のある必要十分な規格を作ることは難しい。
光伝送製品には、高度な技術が要求される。特に、デバイスやICの性能を最大限引き出す必要のある、例えば100Gbit/s PAM-4のような先端インタフェースには、高い設計・製造の経験やスキルが要求され、製品の差が出て互換性の問題が起こる可能性も否定できない。実は、自社製の相互接続を保証した製品を出荷していくことすら大変なのだ。このため、メーカーの品質管理や保証、製品選択時の認定が重要であり、これに関しても解説する。
光トランシーバーでは、発光素子に化合物半導体のレーザーが用いられている。最近注目されているシリコンフォトニクスでも、発光部は化合物半導体を用いている。シリコンは、量子物理学的に発光素子には向かないのだ。現在の通信用レーザーには、周期表III族元素とV族元素を用いた直接遷移型のIII-V族化合物半導体が使用されている。GaAsとInPをウエハー基板としたレーザーが主流だ。
レーザーでは高密度に電子を注入し、高密度な光子(強い光)を発生させるため、それによる劣化現象が観測されることがある。特に、シリコンの単結晶と異なり、III族とV族元素を混合した化合物半導体では結晶の不完全性が生じ、劣化原因となることがある。この不完全性はウエハーの品質だけではなく、結晶を含むデバイスの構造や製造プロセスに依存する。また、レーザーチップ起因だけではなく、トランシーバー完成までの静電気や機械的ストレスによっても誘発される。
最近は劣化の研究が進み、劣化原因を特定しながら劣化を低減する努力が行われている。実際、不良や故障はppm(Parts Per Million)で評価できるようになってきた。
それでも、残念ながら出荷試験中や運用中の故障に関してさまざまな話が耳に入ってくる。これを最小限に抑えるには、光トランシーバーの信頼性の確認・認定を行うことが必要だ。このシリーズでは、一般的な認定を行う場合を考え、光トランシーバーの信頼性に関して解説したい。また、信頼度試験の規格などにも触れる予定だ。
もう一つ、不良品として返却されるトランシーバーの大半は、取り扱いに原因があると言われていることも挙げておきたい。
特に、シングルモードファイバーケーブルは光の通り道が、わずか10μm(人間の毛髪の10分の1)と非常に細い。そのため、ケーブルとトランシーバーの間の小さなごみでも、接続不良を引き起こすことがある。ケーブル側にゴミが付着している場合は、トランシーバーを交換しても連続して不良になってしまう。こうした、取り扱い上の注意点にも触れていきたい。
筆者がユーザーから受けた質問や、トラブル経験などを基に、できるだけユーザーサイドに立ったシリーズにしていくつもりなので、次回以降もぜひ、楽しみにお待ちいただければ幸いだ。
筆者プロフィール
高井 厚志(たかい あつし)
30年以上にわたり、さまざまな光伝送デバイス・モジュールの研究開発などに携わる。光通信分野において、研究、設計、開発、製造、マーケティング、事業戦略に従事した他、事業部長やCTO(最高技術責任者)にも就任。多くの経験とスキルを積み重ねてきた。
日立製作所から米Opnext(オプネクスト)に異動。さらに、Opnextと米Oclaro(オクラロ)の買収合併により、Oclaroに移る。Opnext/Oclaro時代はシリコンバレーに駐在し、エキサイティングな毎日を楽しんだ。
さらに、その時々の日米欧中の先端企業と協働および共創で、新製品の開発や新市場の開拓を行ってきた。関連分野のさまざまな学会や標準化にも幅広く貢献。現在はコンサルタントとして活動中である。
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