「モバイルネットワークの民主化を目指す」楽天 三木谷氏:完全仮想化ネットワークで
楽天のイベント「Rakuten OPTIMISM 2019」が2019年7月31日、パシフィコ横浜で開幕した。初日のキーノートには会長兼社長の三木谷浩史氏が登壇し、5G(第5世代移動通信)を含め、同社のモバイルネットワークに対する取り組みなどを語った。
モバイルネットワークの世界に“殴り込み”をかける
楽天のイベント「Rakuten OPTIMISM 2019」が2019年7月31日、パシフィコ横浜で開幕した。同イベントが日本で開催されるのは今回が初めてとなる。「5G時代を、先取りしよう。」というテーマの下、5Gがもたらす社会上、ビジネス上の変化についての講演や、楽天グループが提供する技術やサービスを体験できるコーナーなどが設けられている。初日のキーノートには会長兼社長の三木谷浩史氏が登壇し、5G(第5世代移動通信)を含め、同社のモバイルネットワークに対する取り組みなどを語った。
現在は、MVNO(Mobile Virtual Network Operator)としてモバイルネットワーク「楽天モバイル」を提供している楽天(楽天モバイルネットワーク)だが、2019年10月以降は、“第4のMNO(Mobile Network Operator)”として自社回線へと移行していく。三木谷氏は、「MVNOというのは他社の回線を借りる形式のため、自分たち(楽天)の技術的なブレークスルーをサービスに反映できない」と語り、日本の携帯料金が高く、サービスの進化を期待できないとも指摘した。
三木谷氏は、インドの新しいMNOがReliance Jioがわずか数年で4G回線をインド中に構築し、1カ月のスマートフォン利用料金を約3米ドルにまで引き下げたことを紹介。これにより、モバイルネットワークのユーザー層の裾野が一気に拡大したことに触れ、「われわれも、モバイルネットワークの世界に大きな“殴り込み”をかけたいと考えている」と強調した。
「当社が目指すのは、“モバイルネットワークの民主化”だ。誰もが安価に高速ネットワークを提供するだけでなく、さまざまな新しい使い方ができるネットワークを実現するため、楽天は取り組みを進めている」(同氏)
「たぶん失敗するよ」――そう言われた完全仮想化ネットワーク
“ネットワークの民主化”を進めるべく楽天モバイルネットワークが開発しているのが、完全仮想化のクラウドネイティブネットワークだ。無線アクセスネットワーク(RAN)からコアネットワークまでを完全に仮想化するというもので、BBU(ベースバンドユニット)などに搭載したソフトウェアをアップデートするだけで、ハードウェアを変更しなくても最新のモバイルネットワークをサポートしたり、さまざまなサービスを提供したりといったことができるようになる。新しいアンテナや基地局への膨大な投資や、メンテナンス費用を抑えられるので、その分、エンドユーザーの携帯料金を安く維持できる。
楽天モバイルネットワークは2019年2月、エンドツーエンドの完全仮想化クラウドネットワークにおいてデータ通信の実証実験に成功したと発表した。三木谷氏によれば、楽天モバイルネットワークは同技術を、ほぼ1年半で完成させたという。同氏は、これまでは完全仮想化ネットワークの実現と導入は、ほぼ不可能だとされてきたと述べる。技術的な要因というよりも、通信業界の“常識”やパワーバランスが一気に崩れる可能性があるからだ。三木谷氏は、2019年に開催されたダボス会議(世界経済フォーラム)で、大手通信機器メーカーのCEOに「頑張ってくれ。恐らくは失敗するだろう」と言われたことを明かしている。
だが、実用化のメドが立った今、三木谷氏は「今までの通信ネットワークの常識を覆すことになる」と述べる。同氏は、『iPhone』がデバイス上の革新ならば、楽天モバイルが進めているのは、そのデバイスが通信を行う経路自体を一新する革新になると続け、「このような革新を、あと2カ月でできると証明してみせる」と自信を見せた。
5G対応アンテナなどを展示
イベントでは、楽天モバイルで使用されるBBUや、4G対応RRH(Remote Radio Head)、5G対応アンテナなどを展示した。
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