長時間労働=美徳の時代は終わる 〜「働き方改革」はパラダイムシフトとなり得るのか:世界を「数字」で回してみよう(61) 働き方改革(20) 最終回(2/9 ページ)
20回にわたり続けてきた「働き方改革」シリーズも、今回で最終回を迎えました。連載中、私はずっと、「働き方改革」の方向性の妥当性は認めつつ、「この問題の解決はそれほど簡単なことではない」という反骨精神にも似た気持ちの下、それを証明すべく数字を回してきました。これは“政策に対する、たった1人の嫌がらせ”とも言えます。そして最終回でも、この精神を貫き、“たった1人の最後の嫌がらせ”をさせていただこうと思っています。
働き方改革の“外側”にいる人たち
こんにちは、江端智一です。
今回は、本連載、世界を「数字」で回してみよう、働き方改革編の最終回として、この私の渾身の力を込めた「最後の嫌がらせ」をさせて頂きたいと思います。
今回のテーマは、「働き方改革の外側にいる人々」です
前述した通り「働き方改革」は、政府から私達に対する「考え方を変えろ」「やり方を変えろ」という命令です。この命令は、実行力を伴わなければ意味がありません。この実行力を支えるのが労働法(例えば、労働基準法)です。
ところが、私が見る限り、この労働法が届かない対象が、少なくとも4人います ―― 正確に言うと、「労働法の保護対象外」ということになります ―― が、皮肉なことに、この人たちは、この働き方改革の「指導者」であり「象徴」であり「労働者を守る主体」であり、そして「法律上の保護が最も届きにくい人」なのです。
(1)総理大臣
労働基準法は、公務員を保護対象としていません。具体的には「一般職」では原則適用がありませんし、「裁判所職員」「国会議員」「防衛庁職員」は完全適用外です*)。
*)ただし「専門職」では適用される場合もあります。
行政庁のトップと国会議員の与党のトップを兼任する総理大臣は、当然に労働基準法の対象外です。
(2)天皇陛下
今回調べてみて初めて知ったのですが(そして、正直、ものすごく驚いたのですが)、天皇陛下は法上の「日本人」ではありません*)。
*)「日本人」の定義については、本シリーズの過去記事「外国人就労拡大で際立つ日本の「ブラック国家ぶり」」を参照ください。
従って、天皇陛下だけ(×皇族)は、日本の全ての法律(刑法、刑事訴訟法、民法、その他)が適用されません(「憲法判例百選II 第5版」[有斐閣]370頁)。当然、天皇陛下のご公務には労働法が適用されません。ただし、ご公務の種類や内容については明確になっています(後述します)。
(3)会社の社長
労働基準法は、労働者を保護する規定ですから、使用者(社長)の保護については規定がありません。社長は社員を保護する義務がありますが、自分を保護してもらう権利はありません。社長が1日24時間働き続けても、労働法は全く関与しません。
(4)フリーランス
例えば、個人で活動するお笑い芸人は、「フリーランス(個人事業主もしくは個人企業法人)」です。このようなお笑い芸人は法上の労働者には該当せず、労働基準法の適用外です。「お笑い芸人本人が、たった一人の会社であり社長である」というイメージで良いです。
基本的に、上記の方たちは、我が国の指導的立場にある人と言えます(お笑い芸人を除く)。もし、法律が届かないことで、このような方たちが、「働き方改革の外側にいる」ならゆゆしき問題です。今回は、これを調べてみたいと思います。
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