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長時間労働=美徳の時代は終わる 〜「働き方改革」はパラダイムシフトとなり得るのか世界を「数字」で回してみよう(61) 働き方改革(20) 最終回(3/9 ページ)

20回にわたり続けてきた「働き方改革」シリーズも、今回で最終回を迎えました。連載中、私はずっと、「働き方改革」の方向性の妥当性は認めつつ、「この問題の解決はそれほど簡単なことではない」という反骨精神にも似た気持ちの下、それを証明すべく数字を回してきました。これは“政策に対する、たった1人の嫌がらせ”とも言えます。そして最終回でも、この精神を貫き、“たった1人の最後の嫌がらせ”をさせていただこうと思っています。

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自ら“働き方改革”をして、お手本を見せてください

 まず、内閣総理大臣のお仕事をざっくり以下の表にまとめてみました。

 まあ、とにかく強い。

 三権分立の中の2つ、行政(政府)と立法(国会)の事実上の最終意思決定者であって、さらに自衛隊の最高指揮監督権まで持っています。戦前の反省に基づくものとはいえ、日本史上、これだけの権力を持つ役職は存在しなかったと言っても過言ではありません*)

*)この辺について知りたい人は、”統帥権”、”文民統制”あたりをググってみてください。

 このような人が忙しくないわけがない ―― 我が国を支える最高権力者として、能力の限りを尽して頂きたくお願い致します。しかし、一方、病気(うつ病等を含む)で、倒れたり、引き込もられたら、えらいことになります。少なくとも、任期中だけは、心身共に健康で安定した精神状態でいてもらわないと、私たち国民が困ります。

 つまり、「働き方改革」を指導する行政の最高トップが、「働き方改革」を無視した働き方をしていたら困るのです。そのような指導者に国民が従う訳がないからです。

 そこで、まず、私は、図書館で古い新聞を探して、戦後の総理大臣の「首相動静*)」をざっくりと調べてみました。といっても、単に総理大臣の一日の仕事を始める時刻と終わる時刻までの、いわゆる「首相の稼働時間」を調べただけです。

*)日本の主要新聞に掲載されている、内閣総理大臣の一日の行動記録。

 昭和の総理大臣の稼働時間は凄かったです。『一体、いつ寝ているんだ』、というくらいの稼働率でした。「長時間労働は正義」という時代を、トップからが実践していたと言えます。

 では、最近の総理大臣はどうなっているのか? 以下は、首相動静から読み取った、先月(2019年7月)の内閣総理大臣(首相)の「稼働時間」です。

 まず注意しなければならないのは、この時間は首相の最初の"動"(例えば、私邸出発)から、最後に"静"(例えば、ホテル到着)に至るまでの時間であること、そして、私たちで言うところの「ランチタイム」や「通勤時間」も含めて考えるものとすると、必ずしも「長時間労働」と決めつけることはできない、とも言えます。

 しかし、この数値だけでは、私邸やホテルの内部での仕事は見えてきません。例えば、VIPとの密会や閣僚との電話を使った打ち合わせ、次の日の国会答弁のレジュメに目を通すなどの時間を考えると、この「稼働時間」を、労働時間の目安とするのも安直過ぎます。

 ですが、働き方改革を推進する行政庁のトップとしては、取りあえず、「国民の範」として ―― 少なくとも「働き過ぎ」ではないことを示すアピール ―― は必要であるはずです。

 まあ、そういう意味で言えば、先月の首相が休暇を取ったと客観的に認められるのは3日程度で、これはこれで問題ですが、平均11.9時間というのは、「なかなか微妙なライン」です。正直「作為」を感じるほどです。

 さらに、首相の"静"の時間を見てみると、20時30分〜21時30分頃に集中しています。これは、労働者の深夜残業をたしなめている「演出」にも見えます。

 ところが、"動"の時間を見てみると、これが結構バラバラなのです(7時〜11時)。

 これは「終業時刻」だけが強調されたアピールのようにも見えるのです ―― そして、律義なことに、我が国の国民は、やはり、首相を「国民の範」としているかのように動いているのです。

 最近、強制的な定時退社や深夜労働の禁止が強化されていますが、逆に早朝出社についての管理はザル状態であり、残業する代わりに早朝からたまった仕事をサービスでこなしているという実態もあります。

 今更言うまでもありませんが「時短」とは、労働開始時刻から労働終了時刻までの時間を短くすることです。早朝に仕事をシフトさせることを「時短」とは言いません。

 働き方改革を推進する行政庁のトップである首相が、国民の範とする働き方を示す(演出する)のであれは、まだまだやるべきことがあります。

 例えば ―― 週に1回程度の在宅勤務。Skypeを使ったリモート党首討論。英語しか使えない代表質問(もちろん、ヤジも英語に限定する)。衆議院議長が『Don't jeer with Japanese (日本語でのヤジは止めてください)』と注意する姿は、英語教育の低年齢化よりも、我が国の英語利用率を劇的に加速させると思います(関連記事:「“Japanese English”という発想(後編)」)。

 このあたりの話、私が提案したことではなく、各官庁から提案されている働き方改革の実行計画に入っている内容なんです(英語による国会答弁は除く)。

 何はともあれ、首相や大臣が率先して、これらの新しい働き方を見せてくれないと困るのです。私たちは、あなたたちの範を取って動く国民なのですから。今後の自己研さんに期待しています。

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