逆風でも堅調、カスタマイズ強化し日本で急成長続ける:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン IPC事業本部長 針田靖久氏(2/2 ページ)
省エネ化/低炭素社会のキーデバイスとして、近年注目を集めるパワー半導体。次世代素材の開発など競争が激化する中、主要メーカーはいかに戦っていくのか。今回は、パワー半導体を主力とし世界トップクラスのシェアを誇る独Infineon Technologiesの日本法人インフィニオン テクノロジーズ ジャパンにおいて産業機器分野などを中心に事業を統括するインダストリアルパワーコントロール(IPC)事業本部の本部長、針田靖久氏に話を聞いた。
「Cold Split」実用化で取れ高3倍も?
――SiCパワー半導体の展開について。
針田氏 InfineonではSiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)といった新しい世代の半導体投資も注力しており、IPC事業本部では特にSiCの開発をリードしている。(実需の)メインストリームが(シリコンによる)IGBT、MOSFETであることは変わらないが、今後より高効率を目指すなかでハイパワーの部分はSiCがカバーしていくなど、プラスアルファとして新素材が活躍すると期待している。例えば、2008年には100kWのPCSを作る場合、システム重量は1000kg以上になっていたが、フルSiCで作れば125kWのものでも77kgで実現でき、かなりの小型化、軽量化が可能になる。
Infineonは、1992年にはSiCパワーデバイスの開発に着手しており(当時はSiemens)、既に27年という長い歴史の中で開発を進めている。SiCパワーデバイスは他社も手掛けているが、トレンチゲートを用いたSiC-MOSFETの製品化では先行しており、Siパワーデバイスで培ったモジュール技術を生かすことができている。パワー半導体としてのパフォーマンスに優れるトレンチ構造だが、特にインダストリー用途においていくら性能が優れていても信頼性でIGBTと比較して劣っていては意味がない。そのため、SiCのパフォーマンスをフルで生かすような形にはならないが、信頼性とバランスが取れた製品設計を行っている。
――SiCウエハー調達の方針はいかがでしょうか。
針田氏 (SiCなどのパワーデバイスを手掛ける)Wolfspeedの買収は破談になったものの、ウエハー提供の長期契約を締結しているのをはじめ、かなり間口を広くして多くのサプライヤーと取引しており、想定される需要へ対応は問題ない。SiCパワーデバイスは現在、フィラッハの150mm工場で生産しているが、フィラッハでは300mmのSiウエハー対応工場の新設にあわせてSiパワーデバイスを200mm、300mmラインへシフトさせていく。そして、Siパワーデバイスの300mmライン移行で余力が生まれる150mmのラインに、SiCを充てる。
さらに、2018年には、ユニークなウエハーの低コスト化技術「Cold Split」を持つ独Siltectraを買収した。Cold Splitは、厚さ350μmのウエハーを水平方向に2枚に分離するというもので、従来の技術では処分していた部分もまたデバイス化ができるという技術だ。ウエハーメーカーでも製造時に多くの「切りしろ」が捨てられている現状のなか、この技術を活用することで1本のインゴットをほぼフルにデバイス化することも可能で、この技術が量産化に生かされれば、理論上は3倍の取れ高になる。まだ精度など生産技術にするための課題はあるが非常に将来が楽しみな技術であり、4〜5年後をめどに実用化すべく進めている。
日本市場でも、カスタマイズ強化で急伸中
――日本のIPCとしての取り組みと、事業展開について教えてください。
針田氏 日本市場での売上高はIPC全体のうち現状5%程度という状況だ。ただ、絶対値がまだ小さいので全体に対しての影響がどれだけあるかははっきりとはいえないが、成長率でいえばInfineonの5つのリージョンの中で最も伸びている。2019会計年度通期は前年比で、二十数パーセントの伸びを見込んでいる。用途として最も多いのは一般ドライブで、その後ホームアプライアンス、再生エネルギーと続く形だ。
日本では555(ゴーゴーゴー)戦略として、5つの製品、5つの業種グループ、5つのアプリケーションにフォーカスを絞ることで、厳しい日本市場において競争力を持つことを目指している。そのなかの1つの取り組みが、2019年に設置したシステムセンターだ。これは本社のR&Dのブランチ機能を持つもので、顧客のためのソフトウェアのカスタマイゼーションや、顧客と一緒にプリントサーキットボードのデザイン、レファレンスデザインの作製などを行う。日本市場では製品のカスタマイズへの要求が強く、先進的なカスタマイズを求められるが、これまでは本国や他拠点でなければできなかった。それが日本国内で日本人が日本語で対応できるようになったことは大きい。この環境のもと、今後、iMOTIONが新たな柱になっていくように伸ばしていく。
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