5Gの導入で変わる? RFチップの材料:Siの代替材料が期待される(2/2 ページ)
「Mobile World Congress(MWC) 2020」の中止にもかかわらず、特に5G(第5世代移動通信) RFのフロントエンドモジュールでシリコン性能の限界に到達しつつあるエレクトロニクス企業の中で、5Gの追及は時間単位でより劇的に高まっている。
5G向けの新設計に向けて奔走するRFチップメーカー
RFシリコンメーカーは現在、5Gシステム向けの新しい設計/アーキテクチャの実現に向けて奔走している。それはなぜなのだろうか。
5Gは、さまざまな種類の高周波数帯を使用することで高速データ伝送を実現するため、5G RFフロントエンドモジュールに搭載されるパワーアンプやフィルター、スイッチ、LNA(ローノイズアンプ)、アンテナチューナーなどの数が、猛烈な勢いで増大している。膨大な量のコンポーネントの多くはディスクリート(個別半導体)なので、スマートフォンメーカーにとっては、これら全てのRFモジュールを5Gスマートフォンに搭載しなければならないということが悩みの種だ。
また5Gスマートフォンメーカーは、品質や放熱性、RFコンポーネントの効率などについて、RFフロントエンドモジュールの性能を低下させる可能性があるのではないかと懸念している。
さらに、全てのRFコンポーネントに同じ材料や技術が使われているわけではない。前述のように、POIは、フィルターを改善するために採用されている。GaAsはこれまで、パワーアンプ向けの主要材料とされてきたが、多くのパワーアンプメーカーは現在、GaNについて慎重に検討しているところだ。
Qualcommは何を使うのか
5Gモデムで先端を行くQualcommは、5G向けミリ波RFフロントエンドモジュールにどのソリューション(材料)を採用するのだろうか。
フランスの市場調査会社であるYole DéveloppementのPower & Wireless部門でディレクタを務めるClaire Troadec氏によると、Qulacommは利用可能なオプションを検討した結果、シリコンベースのRFソリューションを選択したという。
Boudre氏はその理由として、「同社の第1世代の5G向けミリ波RFフロントエンドモジュールだからだ」と指摘している。同氏は、「第3〜第4世代の5GRFモジュールには、恐らくGaN-on-Si技術が適用されるのではないか」と述べている。
GaN-on-SiCとGaN-on-Si
EpiGaNは、GaN-on-SiCとGaN-on-Siの両方のエピウエハーを開発している。
2つの違いは何だろうか。
Piliszczuk氏は、「どちらも同じ市場をターゲットにしている。現時点では、GaN-on-SiCの方がより成熟しているためリードしているが、現在、複数のデバイスメーカーがスマートフォン向けGaN-on-Siソリューションの開発にも取り組んでいる」と説明している。
同氏は、「GaN-on-SiCは現在、無線通信インフラ(4G/LTE基地局)や防衛、通信衛星など最高の性能と信頼性が必須となるアプリケーションに利用されている。GaN-on-SiCは、5G MIMOインフラの候補としても有力である」と付け加えた。
Piliszczuk氏によると、「GaN-on-SiはGaN-on-SiCと同様のRF性能を有するが、成熟度が低く、シリコン基板に使用する際に熱的な制約がある」という。
しかし、SoitecはGaN-on-Siの開発を強気で進めている。これは恐らく、半導体製造にみられる“規模の経済”を活用できるからだろう。Piliszczuk氏は、新しい大量生産・大量消費市場を開拓できると確信している。Soitecによると、200mm GaN-on-Si製品は現在、EpiGaN/Soitecから入手可能だという。「GaN-on-Siは5Gインフラとスマートフォンの有力な候補でもある」(Piliszczuk氏)
Yole DéveloppementのPower & Wireless部門でRFデバイスと同技術の技術/市場アナリストを務めるAntoine Bonnabel氏は、より慎重な見解を示している。
同氏はEE Timesに対し、「GaN-on-Siはまだ商用利用できるほど成熟していない。一方、GaN-on-SiCは現在、商用利用されている。両者は、同じアプリケーション(高周波パワーアンプ)をターゲットにしている」と語った。
Bonnabel氏は、「現時点での問題は、GaN-on-SiC技術がシリコンベースのソリューションに比べて高額すぎることだ。これは特に、大規模MIMO向けの低電力アンプや3GHz未満のパワーアンプで顕著である。また、大規模MIMOのような小電力アプリケーションには適用できない」と述べている。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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