5年で1200億円投資、拡大市場狙い攻勢強める富士電機:富士電機 電子デバイス事業本部長 宝泉徹氏(2/2 ページ)
富士電機がパワー半導体市場で攻勢を強めている―――。2019年に発表した2019〜2023年度中期経営計画(以下、中計)において、同社は成長戦略の中核にパワエレシステム/パワー半導体を置いた。特にパワー半導体については2023年度の売上高目標を1750億円(2018年度比57%増)とするなど、主力のIGBTを原動力に市場での存在感を高めていく方針だ。今回、同社電子デバイス事業本部長、宝泉徹氏からその戦略や開発方針などを聞いた。
「RC-IGBT」武器に、自動車/産業両面で競争力強化
――パワー半導体戦略について、分野ごとの注力施策を説明してください。
宝泉氏 われわれはxEV市場が2023年まで年率41%拡大すると見込んでいる。そして2023年度までに自動車分野を半導体売り上げ全体の50%まで引き上げる計画であり、自動車分野を主軸に製品展開していくことになる。そのキーデバイスとなるのは「RC-IGBT」だ。
RC-IGBTとはIGBTとFWD(Free Wheeling Diode)を一体化したもので、従来のIGBTとFWDを組み合わせたものと比較してチップ実装面積は25%減、チップ発熱は33%減できるほか、発熱が均一化されることによる高信頼性といったメリットがある。第7世代IGBTをベースに、このRC-IGBTを適応して差別化を図る。同時に「第4世代直接水冷モジュール」にも期待している。これはフィンの部分に水を直接通して直接水冷するもので、高放熱性と軽量化が実現できる。既に量産に入っており、RC-IGBTと合わせてこれらの技術をキーにして差別化を図り、自動車分野向けに展開していく。
――RC-IGBTの技術について、競合と比較した際の富士電機の強みをどう考えていますか。
宝泉氏 RC-IGBTの開発で最も重要なのはFWDとIGBTの比率だ。われわれはかなり古くから自動車メーカーと協力しており、車載向けのRC-IGBTについては業界では他社に先駆けて供給を始めた。これまでに培ってきた知見とノウハウは富士電機ならではの強みだ。
――産業分野での重点施策を教えてください。
宝泉氏 産業モジュール分野の売上高を2018年度比で26%引き上げる計画であり、ここでも第7世代IGBTおよびRC-IGBTをキーとして展開していく。具体的には新エネルギーなどの大容量帯では、大容量パッケージPrimePACK3を採用したモジュールにRC-IGBTを適応することで、従来比33%増の大容量化を実現する。また、家庭用エアコンなどの小容量向けのSmall IPM(Intelligent Power Module)に第7世代IGBTを適応することで前世代と比較し32%の電力損失低減も可能となる。
もともと、富士電機は産業ロボットや汎用インバーターなどの中容量帯の製品を強みとしており、そのうえで10年ほど前から徐々に大容量帯/小容量帯のラインアップを拡充してきた経緯がある。今後はこれらの技術をもとに、さらにその流れを強化していこうと考えている。現在、産業モジュール分野の売上高に占める大容量+小容量帯製品の比率は全体の17%だが、これを2023年度には31%まで増やす方針だ。
――国内の売上比率についての方針は。
宝泉氏 既に海外比率は50%を超えているが、それを2023年度に61%まで上げることを計画している。海外市場展開としては自動車分野を中心としながら中国ではエアコンのインバータ化の進展でのさらなる拡大を図るほか、欧州では風力、太陽光などの新エネルギー向けで拡大の機会があり、注力していく。
SiCパワーモジュール、2026年までに市場シェア20%狙う
――SiC(炭化ケイ素)製品の開発方針についてはいかがでしょうか。
宝泉氏 SiCデバイス開発への投資も継続していく。ただSiCデバイスは少しずつは拡大しており、2023年度までに2桁億円程度の売上高規模にまで成長すると考えているが、売り上げ全体で見ればまだ大きな貢献をしてくる段階にはない。SiCは性能改善もそうだが、現在のところSiCウエハーがかなり高いという課題があるほか、その品質向上も求められる。デバイス設計による性能改善だけでなく材料のコスト、性能改善が同時に進まなければならないだろうと認識している。
SiCに関しては、われわれはモジュール製品の展開に注力していく方針だ。現状、新エネルギーや電鉄向けなどが立ち上がっているが、まだまだシリコンの製品と比較して比率は少ない。自動車向けについては少量で実験的に流している段階であり、大規模な量産車への搭載が始まるのは2025年ごろになると考えている。こうしたxEV市場の本格化に合わせてSiCデバイス市場も大きく拡大してくことを予測しており、そこに向けた準備を着々と進めている。
現在は第1世代のトレンチゲートMOSFETを量産中で、第2世代トレンチゲートMOSFETの開発を進めている。第2世代は微細化と基板の薄膜化などによって第1世代と比較して23%の低損失を実現するもので、2020年夏前ごろのサンプル提供を計画している。あわせて一般産業/新エネルギー向けや電鉄向けなど、各用途に合ったパッケージ系列を追加していく。
さらにその性能を改善した第3世代は2025年ごろには提供を始め、SiCデバイス市場の本格化に合わせて大きく売上に貢献させていく。第3世代の開発方針としては引き続きトレンチゲート構造を採用しさらなる微細化、薄ウエハー化などの性能改善を入れ込んでいくことになるだろう。
――SiCデバイス市場展開における目標について教えてください。
宝泉氏 2025〜2026年にはSiCパワーモジュール市場全体の20%のシェアを狙っていきたい。市場規模の予測を踏まえれば金額的には100〜150億円程度になる。生産については現在松本工場の6インチラインで製造を行っており、こちらも具体的な計画はないが能力拡大の可能性も見据えつつ、需要動向などの状況を注視していく。
――SiCに関して、ウエハー不足に対する対応方針は。
宝泉氏 われわれの計画上必要となる量は確保できるようウエハーメーカーと協力できているが、一方で、今後に向けて調達先を増やさなければならないだろうとも考えている。現時点で具体的な計画はないが、今後急速に需要が拡大することになれば、ウエハー調達に関して長期的契約も視野に入れなければならないだろう。
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