東北大学、Quad-MTJで高速動作などを確認:車載対応のデータ保持特性
東北大学は、新たな4重界面磁気トンネル接合素子(Quad-MTJ)とその製造技術を開発し、STT-MRAM(スピン注入型磁気抵抗メモリ)に求められる「高速動作」の実証と「データ書き換え信頼性」について確認した。同時に車載用途で必要となる「データ保持特性」も実現した。
IoTからAIまで、STT-MRAMの応用領域拡大へ
東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES)のセンター長を務める遠藤哲郎教授らのグループは2020年6月、新たな4重界面磁気トンネル接合素子(Quad-MTJ)とその製造技術を開発し、STT-MRAM(スピン注入型磁気抵抗メモリ)に求められる「高速動作」の実証と「データ書き換えの信頼性」を確認したと発表した。車載用途で必要となる「データ保持特性」も実現した。
今回は、磁石層の材料(CoFeB)開発を行うとともに、バリア層(MgO)との界面を4重にした素子構造の採用や製造技術の開発などにより、磁気的安定性を一段と強化した。これらの技術を用いて試作したQuad-MTJは、直径が33〜90nmである。従来のDouble-MTJと比べ、約2倍の熱安定性を実現している。この結果、試作したQuad-MTJを1Xnmスケールまで微細化しても、10年以上のデータ保持が可能だという。
MTJは一般的に、熱安定性が向上すると書き込み電流が増加して、書き込み速度が低下したり、書き換え耐性が劣化したりするといわれている。これに対し、試作したQuad-MTJは熱安定性が2倍に向上しても、書き込み電流パルス幅が30ナノ秒以下の動作領域で、書き込み電流を抑制している。例えば10ナノ秒という高速動作時の書き込み電流は、Double-MTJと比べ20%以上も削減しているという。
書き換え耐性についても、Double-MTJと同等かそれ以上を実現した。書き込み効率の向上(書き込み電流あるいは電圧の抑制)と、MgO層の製造技術による信頼性向上により、書き込み回数として1011回以上を実現した。
今回の研究成果により、これまでSTT-MRAMの課題といわれてきた、「データ保持特性」や「書き込み速度」「低消費電力動作」そして、「高い書き換え耐性」を同時にクリアすることが可能となる。
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