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量子ビットを初期化する 〜さあ、0猫と1猫を動かそう踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(3)量子コンピュータ(3)(2/8 ページ)

今回のテーマはとにかく難しく、調査と勉強に明け暮れ、不眠に悩み、ついにはブロッホ球が夢に出てくるというありさまです。ですが、とにかく、量子コンピュータの計算を理解するための1歩を踏み出してみましょう。まずは、どんな計算をするにも避けて通れない、「量子ビットの初期化」を見ていきましょう。

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ビッグネームがなければ興味が湧かない?

 こんにちは、江端智一です。

 今回は、前半に、量子コンピュータに関する日本人の意識や、量子コンピュータ技術開発の進捗、課題となっている技術の中の一つである冷却技術について、後半では、前回お話した量子コンピュータの中でも、私の頭でギリギリ理解できる(?)電子を使った「量子ドット方式」の、現時点での実装方法を中心にお話をしていきたいと思います。

*)[Tさんツッコミ!]量子ドット方式が理解できれば、超伝導方式や冷却原子方式、光方式なんかも理解できると思いますよ。

 量子コンピュータの論理的、数学的な説明は、ネットを検索するだけでも相当数ヒットしますが、それに比べると、実装方式についての説明は、本当に少ないです。

 この資料の少なさに困っていたら、前回から監修して頂けることになりました「量子コンピュータ大好きのTUさん、通称『量オタのTさん』」から、10以上の論文やら資料やらを送って頂きました。正直、この1カ月の週末は、この資料を読み解く作業に費やされたといっても過言ではありません。



 前回「量子コンピュータ」の記事に関する、過去15年ほどのトレンド分析を行ったのですが、Tさんから、「海外と日本では、反応が違うようです」との指摘を受けました。

 そこで今度は、前回同様、Googleトレンドを使って、「Quantum computer(量子コンピュータ)」という言葉を入れて、世界と日本とのニュースヘッダの見出し数の比較を行ってみました。

 はっきりしたことは、”D-Wave”に対する、日本人の反応の薄さです。はっきり言えば、私たち日本人は、”IBM”とか”Google”とかのビックネームが付いてこないと、興味を示せないようです。

 これは、前回お話した”バズワード”に見られる、技術的理解なしにその技術を信じさせる効果(技術に投資する)が、違う方向に働いているように見えます。一言で言えば、”D-Wave?何それ? ミュージシャン?サーフィンボードの会社?”てなもんです。

 未知の技術に対して、ある種の権威を必要とするのは人間としての性(さが)ですので、批判には当たらないと思いますが ―― しかし、日本人の「量子コンピュータ」に対する興味や理解が、世界と比較して、かなり低いレベルにあるという状況は認めなければならないとは思います。

 もちろん、これは、「良い」とか「悪い」とか言う話ではありませんが、私を含めて日本人は「完成したもの/完成が保証されたもの」にだけに投資しようとする傾向がある、という(主に海外からの)批判は、上のグラフを見ている限り、的を射ているように思えます。

 特に、私は、研究現場のフロントで、「費用対効果」を理由に、基礎的研究のプロジェクトが消えていったのを、数多く見てきました*)

これについては、「エンジニアの心を殺す者たち」をご一読ください。

 その一方で、日本や世界を問わず、私たち一般人の「量子コンピュータ」に対する、興味の小ささは、それなりに仕方がないのかもしれません。というのは、「量子コンピュータ」は、現在のコンピュータ(いわゆる「古典コンピュータ」と呼ばれているもの)と比べて、その発展速度が「遅い」からです。

 上図は、私が自分で作った、古典コンピュータと量子コンピュータのイベントを比較した年表です。当然にスタートの時期は異なるのですが、理論構築から現実のモノ(デバイス)への実装、また、そのモノが商用ベースに乗るまでの時間を比較しても、量子コンピュータの方が2倍程度遅い、と言えます。

 さらにシビアなことを言えば、現時点でも、量子ビットのデバイスは確定しておらず、その集積化にもメドは立っていない状況で、商用化の時期は(少なくとも、この私には)全く見えないです。IBMが公開している量子コンピュータは、正直なところ、量子ビットをいじって試す程度のものに過ぎませんし、量子コンピュータのアプリケーションと呼べるものは、現時点で一つも動いていないと言えます。

 もっとも、量子コンピュータの技術的進歩を、古典コンピュータと比較すること自体が、”暴力”と言って良いほど理不尽である、ということは分かっています。

 それは、現実の世界では観測できない量子現象を理解することが相当難しい、ということに加えて、量子コンピュータの稼働環境が、古典コンピュータと比較して、お話にならないほど厳しいものだからです。

 私が調べただけでも、これだけの問題があり、その一つ一つが、古典コンピュータを作り出すのと同等、あるいはそれ以上の難しさです。

 例えば、ノイズ問題などは、ノイズを除去すれば済むという話ではなく、量子コンピュータは、その問題を活用しているとも見なせますし、現在の技術のまま集積化すれば、とんでもなく大きな集積回路が必要になります。

 仮に、暗号を解読する量子コンピュータの量子ビットが”1億ビット”必要である、とした上で、その量子コンピュータを動かす電力を、”1量子ゲート1W程度”と相当乱暴に決めてみると、量子コンピュータ一台あたりの消費電力は1億ワットとなり、1000台の量子コンピュータを稼働するだけで、日本中の消費電力の全部を持っていかれます*)(関連記事:「日本の電力は足りているのか?――“メイドの数”に換算して、検証してみる(後編)」)。

*)量子コンピュータには、コヒーレンス時間があり、連続稼働という概念はありませんが(後述)。

 電力をガブガブ使って、発熱を無制限にして良いというのであれば、古典コンピュータだって、まだまだ性能を上げることができますので、量子コンピュータの優位性が出てこなくなります。

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