NIMSら、調光ガラス向けEC材料の安定供給を実現:一貫した合成プロセス技術を確立
物質・材料研究機構(NIMS)は東京化成工業(TCI)と共同で、電気が流れると色が変わるエレクトロクロミック(EC)材料「メタロ超分子ポリマー」について、安定供給を可能にする合成プロセス技術を確立した。
EC調光フィルムの製作も可能に
物質・材料研究機構(NIMS)機能性材料研究拠点電子機能高分子グループの樋口昌芳グループリーダーらによる研究グループは2020年6月、東京化成工業(TCI)と共同で、電気が流れると色が変わるエレクトロクロミック(EC)材料「メタロ超分子ポリマー」について、安定供給を可能にする合成プロセス技術を確立したと発表した。
EC材料を用いた調光ガラスは、電気を流すと「遮光」と「透明」の状態を切り替えることができる。このため、事務所や商業施設、自動車/電車などの窓ガラスや間仕切り用途で注目されている。しかし、現行のEC調光ガラスは、真空蒸着装置を用いて、透明電極を付けたガラス上にEC材料を膜付けする。このため、ガラスの面積が大きくなると成膜用の設備コストが極めて高くなるなど、本格普及に向けては課題もあった。
こうした中でNIMSは、メタノールなど有機溶剤に溶ける「メタロ超分子ポリマー」を2005年に開発した。このEC材料は塗布によって成膜を可能にした。しかし、これまでのEC材料は、原料の有機分子から多段階の合成が必要であった。これが、「製造コストの上昇」や「各合成工程における品質のばらつき」などを生じさせる要因になっていたという。
NIMSとTCIは今回、メタロ超分子ポリマーの合成プロセスを、一貫して行える生産技術を確立した。これによって中間体の品質管理が可能となり、品質の高いEC材料を安定的に供給できる体制が整った。開発したEC材料を塗布した膜に電気を流すと、材料に含まれる鉄イオンが酸化還元し、可逆的な色変化(EC変化)を示すため、遮光と透明な状態を切り替えることができる。
開発したEC材料は2020年6月30日より、TCIが「Poly(Fe-btpyb)Purple」の製品名で販売する。月間の製造能力はEC調光ガラスに換算して数十平方メートル分である。本格的な実用化に向けて、能力拡大にも取り組む予定。材料販売に併せて、NIMSは調光ガラスなどを製造する時に必要な特許のライセンスをセットで提供する。
開発したEC材料は、プラスチックフィルムなど、ガラス以外にも成膜が可能である。このため、EC調光フィルムを製作し、既存のガラス窓に貼って利用することもできる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- シリコン基板上に単結晶巨大磁気抵抗素子を作製
物質・材料研究機構(NIMS)と産業技術総合研究所(産総研)の共同研究チームは、ウエハー接合技術を用い、磁気抵抗特性に優れた単結晶ホイスラー合金巨大磁気抵抗素子を、シリコン基板上へ作製することに成功した。 - 光でスピンを制御する熱エネルギー制御機能を実証
物質・材料研究機構(NIMS)らの研究チームは、磁性体薄膜に光を照射するだけで、電流に伴って生じる熱流の方向や分布を自在に制御できることを実証した。 - NIMS、環境に優しい高感度の赤外線検出器を開発
物質・材料研究機構(NIMS)は、ジグザグ配線した光アンテナを用い、高感度の赤外線検出器を開発した。水銀やカドミウムを使わずに、高い感度で大気汚染ガスの測定が可能となる。 - NIMSら、EC材料を多重塗布した落ち葉型デバイス
物質・材料研究機構(NIMS)は、早稲田大学や多摩美術大学と共同で、にじみを表現できるソフトディスプレイを開発。電気で紅葉の状態変化を表現できる落ち葉型デバイスの試作に成功した。 - 遮断周波数が38MHzの有機トランジスタを開発
東京大学らによる共同研究グループは、有機半導体単結晶の薄膜上でチャネル長1μmを実現する微細加工手法を開発した。この手法を用い、遮断周波数が38MHzの有機トランジスタを実現した。 - ありふれた元素、わずかな温度差で熱電発電するモジュール
NEDO、物質・材料研究機構、アイシン精機、茨城大学は2019年8月21日、「汎用元素だけで構成する新熱電材料」を使った熱電発電モジュールの開発に成功した、と発表した。IoT(モノのインターネット)機器の駆動やBLE通信が可能になる発電量を得ることができるといい、「将来、日本国内で1兆個ともいわれるIoT機器の駆動を支える自立電源としての普及と使途範囲の拡充に貢献する」としている。