光でスピンを制御する熱エネルギー制御機能を実証:光の照射部だけ熱流方向が変わる
物質・材料研究機構(NIMS)らの研究チームは、磁性体薄膜に光を照射するだけで、電流に伴って生じる熱流の方向や分布を自在に制御できることを実証した。
「異常エッチングスハウゼン効果」を活用
物質・材料研究機構(NIMS)磁性・スピントロニクス材料研究拠点スピンエネルギーグループの内田健一グループリーダーと、磁気記録材料グループの高橋有紀子グループリーダーらによる研究チームは2020年1月、磁性体薄膜に光を照射するだけで、電流に伴って生じる熱流の方向や分布を自在に制御できることを実証したと発表した。
金属や半導体では、「熱電効果」と呼ばれる、電流と熱流の変換現象が生じる。その代表例がペルチェ効果である。ペルチェ効果は、用いる物質によって生成される熱流の方向が決まるといわれている。これに対し磁性体は、スピンの性質によって熱流の方向を制御することができる。「スピンカロリトロニクス」と呼ばれる分野である。
研究チームは今回、スピンカロリトロニクスの原理と光磁気記憶の技術を融合させ、新しい熱エネルギー制御機能を提案し実証した。具体的には、磁性体に電流を流した際に、電流と磁化の両方に垂直な方向に熱流が生成される「異常エッチングスハウゼン効果」と呼ばれる技術を用いて実験を行った。
内田グループリーダーらはこれまで、汎用性の高い異常エッチングスハウゼン効果の計測法を確立しており、板材だけでなく薄膜デバイスによる実験も可能となってきた。異常エッチングスハウゼン効果により生成された熱流の方向は、磁性体の磁化方向によって決まる。このため、磁化を反転させれば熱流の方向も反転することになる。つまり、光誘起磁化反転現象を示す磁性体は、光照射による磁化反転で熱流を反転させることが可能となる。
特筆されるのは、熱流の反転が生じるのはレーザー光を照射したエリアだけである。熱量の方向は、光が「右回り円偏光」であるか「左回り円偏光」か、で決まる点だ。つまり、光の照射パターンや偏光状態を変えることによって、磁性体中の熱流分布を自由に制御することが可能となる。
研究チームは、光誘起磁化反転現象を示すといわれている「Co/Pt多層膜」を用い、電流を印加した時の温度分布を測定した。この結果、測定したデータは、異常エッチングスハウゼン効果による電流‐熱流変換が示す振る舞いと整合していることを確認した。さらに、Co/Pt多層膜に直線偏光を照射すると温度変化信号は消失し、円偏光を照射すれば、温度変化は再び発現することも分かった。
研究チームは今回の研究成果について、加熱/冷却能力を大幅に向上することができれば、スピントロニクスデバイスにおける熱制御に利用できる可能性が高いとみている。そのためには、光誘起磁化反転現象を示す磁性体における熱電効果の微視的起源解明や、高い熱電変換効率を示す新材料の開発を進めていく必要があるという。
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