NIMS、環境に優しい高感度の赤外線検出器を開発:光アンテナをジグザグ配線で接続
物質・材料研究機構(NIMS)は、ジグザグ配線した光アンテナを用い、高感度の赤外線検出器を開発した。水銀やカドミウムを使わずに、高い感度で大気汚染ガスの測定が可能となる。
水銀やカドミウムを使わず大気汚染ガスを計測
物質・材料研究機構(NIMS)は2020年2月、ジグザグ配線した光アンテナを用い、高感度の赤外線検出器を開発したと発表した。水銀やカドミウムを使わずに、高い感度で大気汚染ガスの測定が可能となる。
今回の成果はNIMS機能性材料研究拠点の宮崎英樹グループリーダーや間野高明主幹研究員らによる研究チームと日本大学および、東北大学との共同研究によるものである。
大気環境中に含まれるNOxやSOxといったガスの分析では、波長5〜10μmの赤外線を高い感度で検出することが重要となる。これらの検出には有毒な水銀やカドミウムを含む冷却式の検出器を用いるのが、これまでは一般的であった。
そこで、研究グループは毒性が低く実用レベルの感度を備えた赤外線検出器の開発に取り組んだ。今回は、低毒性で高い感度を実現できる「量子井戸赤外線検出器」と、光の波長より小さい光アンテナを無数に並べることで特異な光学特性を実現できる「メタマテリアル」を組み合わせた。
具体的には、厚み4nmのガリウムヒ素量子井戸層を含む総厚みが200nmの半導体層を、金の基板と金の正方形パッチで挟んだ構造の光アンテナを開発した。これにより、量子井戸が入射光を吸収する能力を飛躍的に向上させた。さらに、独自の結晶成長方法を開発し、光アンテナとガリウムヒ素を組み合わせても、電流が流れやすいようにした。
複数の光アンテナを接続するための配線も工夫した。電流を取り出すための配線を、今回は隣り合うアンテナの共鳴タイミングを一致させるための「位相遅延素子」としても活用することにした。アンテナ間を接続する配線も、パターンをジグザグにしたり、配線長を最適化したりした。これにより、量子井戸の感度ピーク波長で全アンテナの共鳴タイミングを一致させ、入射した赤外線を大きな電流信号に変換させることに成功した。
研究グループによれば、電子の波を制御する「量子井戸構造」や、光の波を制御する「光アンテナ構造」の寸法を最適化することで、感度ピーク波長を自在に変更することが可能となる。これによって、さまざまなガス分子に対応する検出器を実現することができるという。
また、室温など高い温度環境においても、実用レベルの感度を得ることが可能だという。レンズなど光学系の機能を組み込んだ赤外線検出器なども実現できるとみている。さらに、光光源や光変調器といった、今後のメタマテリアルデバイスの基盤構造になるものと期待する。
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