車載システムの共同デジタル試作を実現するプラットフォーム:異なるツールをそのまま利用可能(2/2 ページ)
東芝デジタルソリューションズは2020年7月9日、サイバー空間上で企業の枠を超えた車載システムの共同デジタル試作を可能にする「分散・連成シミュレーションプラットフォーム VenetDCP」の販売を開始する、と発表した。各社がそれぞれ保有するシミュレーションツールをサイバー空間上でつなぐことで開発を加速するもので、同社取締役社長の島田太郎氏は、「今後のデジタル化の世界において、日本が再び大きな地位を占める非常に重要な一歩だ」としている。
異なるシミュレーションツールをそのまま生かせる
これらの課題の解決策として同社が開発したのが、「分散・連成シミュレーションプラットフォーム VenetDCP」だ。VenetDCPでは、自動車メーカーとサプライヤーが“分散”して保有するモデルを自社側で保持したままサイバー空間上で1つにつなぎ“連成”させることで、あたかも1台のクルマの中で動いているようにシミュレーションができるようになる。これによって開発の初期段階からシミュレーションを繰り返し実施することを可能とし、設計の手戻り作業の削減、品質の改善、生産性の向上を実現する、としている。
具体的には、まず開発の初期段階で自動車メーカーが定義する車両通信仕様をもとに、VenetDCPがバスコネクターを自動生成し、各サプライヤーに配布する。各社はそのバスコネクターをそれぞれの環境に組み込むことで、容易に全体を接続したシミュレーションができるという。
各社のシミュレーション環境を接続するという形をとるため、モデルを秘匿したままで連成シミュレーションが可能となるほか、モデルを一カ所に集めることがないため、性能面の懸念も解消される。また、クラウド化も可能で、「低遅延、高性能リソースによる高速化が可能だ」としている。
自動車メーカーやサプライヤー各社はそれぞれ異なったシミュレーションツールを利用している場合が多いが、VenetDCPであればシミュレーションツールやバージョンが異なっていても、連成シミュレーションが可能。異種のシミュレーションツール間でモデルを相互利用するための世界標準規格である「FMI(Functional Mock-up Interface)」にも準拠しており、同社は、「これまでの資産を無駄にすることなく生かせるのが特長だ」と説明している。
なお、同社は企業間でのモデルの流通と連成シミュレーション活用の仕組みやプロセスの標準化活動団体「prostep ivip association」(ドイツ)に加盟しているほか、日本でも経済産業省が発表した「SURIAWASE2.0」にも積極的に参加しているといい、「これらの活動を通して、自動車メーカーと部サプライヤーが共同で車載システムのデジタル試作を行うための標準プラットフォームの整備と確立を目指す」としている。
VenetDCPはサブスクリプション方式で提供する予定。既に複数の企業で検証が進んでいるという。また、島田氏は、「航空機や複雑化するロボットなどでも分散化したシミュレーションができれば、製品開発の速度が圧倒的に変わるだろう」と説明。自動車業界に限らず幅広い分野での展開を図る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ソリッドステートLiDARで200mの測距を実現、東芝
東芝は2020年7月7日、ソリッドステートLiDARで従来比4倍となる200mの長距離測定を達成する受光技術を開発した、と発表した。現在は一定条件下の数値ではあるが機械式と同レベルの長距離性能を達成する技術であり、「レベル4以上の自動運転実現に大きく貢献する」と説明。既に近、中距離測定用としては十分な性能を発揮するという。同社は2022年度までに実用化を目指す。 - 東芝、半導体製造で発生する不良をAI技術で発見
東芝は、少量多品種の半導体について、製造工程で発生する不良を早期に発見できるAI技術を開発した。実際の製造ラインに導入して評価したところ、不良解析に要する時間を従来の約8分の1に短縮できた。 - 東芝、AIで自車両の動き推定と他車両の動き予測
東芝は、車載カメラと慣性センサーを用いて、自車両の動きを高い精度で推定する「自車両の動き推定AI」と、周辺車両の将来の動きを高精度に予測する「他車両の動き予測AI」を開発した。 - 東芝、マイコン製品群を刷新
東芝デバイス&ストレージは、Arm Cortex-Mコア搭載の32ビットマイコンとして、IoT(モノのインターネット)機器向けの製品群「TXZ+ファミリー」を新たに投入する。 - エッジ上でキーワード検出&話者認識できるAI、東芝
東芝は2020年2月20日、処理能力に制約があるエッジデバイス上でも高速で動作する音声キーワード検出機能付き話者認識AIを「世界で初めて」(同社)開発した、と発表した。このAI技術によってネットワーク接続していない家電などのエッジデバイスでも3回の発話で話者登録ができ、音声による操作や話者に合わせた機器の動きの変更が可能になるという。 - 複数信号の双方向通信を実現する絶縁ICなど開発、東芝
東芝は2020年2月21日、3つの信号の双方向通信と100mW以上の電力電送が可能な「双方向多重伝送IC」および、データセンターのサーバ用電源システムなどに搭載できる「高速絶縁計測IC」を開発したと発表した。いずれも2022年度以降のサンプル提供を目指している。