TSMCが設備投資額を増加、見通し改善に期待:2020年は160億〜170億ドルに
TSMCは、2020年の設備投資予測について、前回の予測から約10億米ドル増やし、160億〜170億米ドルに達する見込みだと発表した。その背景には、今後5G(第5世代移動通信)スマートフォンやHPC(High-Performance Computing)製品の需要が高まり、2020年以降の数年間は売上高が増加するとみられ、見通しが改善されたということがある。
TSMCは、2020年の設備投資予測について、前回の予測から約10億米ドル増やし、160〜170億米ドルに達する見込みだと発表した。その背景には、今後5G(第5世代移動通信)スマートフォンやHPC(High-Performance Computing)製品の需要が高まり、2020年以降の数年間は売上高が増加するとみられ、見通しが改善されたということがある。
世界最大規模の時価総額を誇る半導体メーカーであるTSMCは、「2020年第3四半期に、AppleやMediaTekなどの顧客企業から、5GスマートフォンやHPC、IoT(モノのインターネット)などの用途向けとして、5nm/7nmプロセス製品の受注が増大する見込みだ」としている。
それでも、エレクトロニクス業界を先導するTSMCは、近い将来、逆風に直面することになるだろう。新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、消費者需要は引き続き減速するとみられるため、TSMCは、2020年のスマートフォン出荷台数が前年比で減少すると予測している。さらに同社は、米商務省の規制措置によって、中国Huaweiへの製品販売を禁じられていることもあり、2020年後半の需要は低迷する見込みだ。
TSMCは、「2020年後半の世界半導体市場の成長率は、全体的に横ばいか、またはわずかに上昇するとみられる。また、2020年のファウンドリー市場全体の成長率は、10%半ばから後半になる見込みだが、同市場において優勢を維持するTSMCは、20%を超える売上高成長率を実現し、競合他社を大きく引き離すだろう」と述べている。
TSMCのCEOを務めるCC Wei氏は、同社が台湾で開催した2020年第2四半期の業績発表を行うイベント会場において、「中長期的には、5GやHPC用途向けに関する基本的な大きな流れが変化することはないだろう。サプライチェーンは、調整したりバランスを取り戻したりすることができる」と述べている。
米国政府は現在、米国製の半導体装置や設計ツールを使用してHuaweiの子会社であるHiSiliconに半導体製品を供給しているメーカーに対し、規制措置を課しているが、TSMCは、この措置が緩和される予定であることについて楽観視しているようだ。HiSiliconは、トランプ政権のブラックリストに登録されている。
Huaweiからの新規受注はゼロ
TSMCのチェアマンを務めるMark Liu氏は、2020年6月に、「当社は、米中間の貿易戦争の中で、板挟みの状態になっている」と述べている。米国による制裁措置は、TSMCだけでなく、Samsung ElectronicsやSMICなどの競合企業にも同様に適用される。
また、Liu氏は2020年7月16日に、「TSMCは2020年5月以降、Huaweiからの新規受注を1つも受けていない。また2020年9月15日以降も、Huawei向けにシリコンウエハーを出荷する予定はない」と述べた。
「TSMCが今回発表した2020年の見通しは、Huaweiからの新規受注の不足分を、他の顧客企業からの新たな受注で埋め合わせることが可能だということを示している。Huaweiが当社の売上高全体に占める割合は、2020年5月の時点で、約15%だった」(Liu氏)
TSMCは今後も、Huaweiを間接的な顧客として位置付けていくのではないだろうか。
Liu氏は、「現在のところ、米商務省の規制措置では、Huaweiに対する一般的な半導体製品の販売は禁じられていない。このため同社は、サードパーティー製の標準製品を使用することにより、スマートフォン事業を継続するという選択を取るのではないか」と述べる。
TSMCは、「Huaweiをはじめ、同社のエコシステムのメーカー各社が、商務省の規制措置を想定して半導体チップの備蓄を進めた後に、発注を減らすと考えられることから、在庫調整の可能性を排除することはできない」と述べている。
またTSMCは、5nmプロセスの製造を開始し、引き続きEUV(極端紫外線)装置の歩留まり改善に取り組んでいる。同社は、「今後5GやHPC用途向けの需要が増加することにより、2020年後半には5nmプロセスの量産を強化できる見込みだ。また、2020年売上高全体に占める5nmプロセス製品の割合は、約8%に達すると予測している」と述べる。
さらに、「当社は2021年初めに、5nmプロセスの拡張技術として、4nmプロセスを発表する予定だ。5nmプロセスとの互換性を備えた設計ルールを使用し、コスト面での優位性も非常に高い。また2022年には、4nmプロセスの量産を開始する予定だ。
そして2022年後半には、新たに3nmプロセスの量産開始を予定している」と述べている。
アリゾナ工場の建設計画に進展なし
TSMCは、米国アリゾナ州と連邦政府からのサポートを受けて建設する予定の5nmプロセスチップ工場に関しては、まだ何も新しい情報がないとしている。
アリゾナ工場は、1カ月当たり2万枚のウエハーを処理することができ、1600人を超える直接雇用と、数千人規模の間接雇用を創出すると期待されている。
Wei氏は、「TSMCは現在、連邦政府やアリゾナ州、サプライチェーンパートナーとの密接な連携により、新工場の建設に向けて、台湾の半導体工場とのコスト差の問題の解決に取り組んでいる。アリゾナ工場は、2024年をメドに稼働を開始する予定だ」と述べている。
またLiu氏は、「TSMCと米国政府がアリゾナ工場建設計画について発表した後、米国上院において米国半導体業界の復活を目指すための法案が提出されたが、これはTSMCの計画に非常にうまく合致していると言える」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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