宣伝文句に踊らされるな! 分解するから分かる“中身との差”:製品分解で探るアジアの新トレンド(47)(3/3 ページ)
広告のうたい文句と“実際の中身”が違うことは、程度の差はあれ、あることだ(その良しあしについては言及しない)。今回は、インターネット広告でよく見かける“蚊よけブレスレット”を分解し、宣伝文句との違いを比較してみた。
“AI”は、一体どこに……?
図6に開封したSOP8チップの外観、顕微鏡で拡大したチップメーカー(チップコーナーに搭載されている)、チップ型名の文字情報を示す(詳細は有償のテカナリエレポートに掲載)。実際には鮮明な写真だが、一部にぼかしを入れてある。
蚊よけブレスレットに採用されているSOP8のチップは、メーカー情報やチップ型名情報から、4ビットのトイ製品向けマイコンであることが判明した。多くのおもちゃ(音声を発する)に採用されているチップである。他の製品での採用実績も多い。データシートなども入手可能なものだ。蚊よけブレスレットの宣伝にあるようなAI機能は搭載されていない。
昨今のAIブームで、「AI」を名乗る製品は多いが、AIの定義が曖昧なので、中には名ばかりのAIも多数紛れ込んでいることは事実である。だが、それを差し引いてもトイ向けの4ビットマイコンをAIと名乗るのには無理があるのではないか。まず、SOP8ピンのチップでは電源、クロックなどで最低でも3端子を使ってしまうので残り5端子では、AIのような処理を行うことは難しい。しかも、そもそもこの製品には入力データ(外部センサーなど)がないので、何をAI処理しているのかも不明だ。
図7に、宣伝文句と分解結果の違いをまとめた。再度申し上げるが、目的は、あくまでも宣伝と実体に差があることを明確にするためで、批判や揶揄では決してない。宣伝と実体の間に、解釈だけで済まない差があったので取り上げたわけである。
電池容量や周波数は、使用者には分からない部分である。一般的には数字が大きいほど性能が高いので、実際よりも大きい数字(倍以上の差)を宣伝に使用した場合は、やはり「誤情報」として取り上げるべきものだろう。4ビットマイコンも人工物で何らかの処理ができるので、それをAIだと言われれば「そうですね」と言えないこともないが……水掛け論になってしまうかもしれない。
誤(4)に関しては多くの情報があるので、ぜひ気になる方はご自身で調べてみていただきたい。
外部と内部の不一致、宣伝と実体に差があることは古今東西、常にあることである。弊社では最先端の調査を中心に行っているが、今回報告のような「不一致」についても調査を行っている。もしも気になるものがあればぜひ問い合わせいただきたい。内容によっては無償でチップ開封などを行います。
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