米中サプライチェーンの分断が深刻化:Foxconnが製造拠点を中国外へ(2/2 ページ)
台湾Foxconnは2020年8月、米中間で貿易戦争が激化している影響を受け、現在中国に置いている生産拠点を海外に移転する予定であることを明らかにした。
FPD分野には影響なし?
エレクトロニクスサプライチェーンの中には一部、崩壊の兆候がほとんど見られない分野がある。
フラットパネルディスプレイ(FPD)は、中国や韓国、台湾で製造されている。中国は約10年前に、中国政府がBOE Technologyなどのメーカーに数十億米ドル規模の資金を投じたことによって、世界最大の製造拠点となった。しかし、これらのメーカーの生産量が急激に増大して供給過剰を引き起こし、Samsung Displayなどの多くの既存メーカーの収益性に影響を及ぼす結果となった。
中国が、獲得したFPD市場を手放すというような兆候は、ほとんど見られない。FPDは、スマートフォンから航空管制用モニターに至るまで、さまざまな軍用機器やコンシューマー機器で使われている。
ディスプレイ関連の市場調査会社であるDSCC(Display Supply Chain Consultants)でCEOを務めるRoss Young氏は、「中国は現在も、ただ他の国々を犠牲にしてディスプレイ製造能力を拡大しているという状況にある。インドでプロジェクトが始動する可能性があるといううわさを時折耳にしたが、まだ結果を出せていないようだ」と述べている。
FPD製造施設の建設費は数十億米ドルに上り、これは最先端の半導体工場の建設費に匹敵する。
ディスプレイのサイズやマザーガラス、技術によるが、FPD製造施設を新たに建設するには10億〜40億米ドルのコストがかかる。
ディスプレイ関連のコンサルタント会社であるNutmeg Consultantsでプリンシパルを務めるKenneth Werner氏は、「テレビサイズの液晶ディスプレイの製造にはほとんどマージンがないため、事実上全ての製造が韓国から中国に移行している。LG DisplayのAM-OLED(アクティブマトリクス式有機EL)の新しい工場は、中国の広州で量産を開始したばかりだ」と述べている。
米国ウィスコンシン州に建設を計画していたFoxconnのFPD工場は、かつてドナルド・トランプ大統領が「(七不思議に次ぐ)世界8番目の不思議」になると称賛していたが、そうなる可能性は低い。
Werner氏は、「Foxconnは、ウィスコンシン州ラシーン郡に10.5世代のFPD工場を建設する計画だった。これはどう考えてもとっぴな計画で、進展は期待できそうにない」と述べている。
台湾の二大サイエンスパークにも移転の可能性
DigitimesのHuang氏は、「台湾は、TSMCやUMC(United Microelectronics Corporation)、その他数多くの半導体メーカーや半導体設計会社などを輩出してきたサイエンスパークを国外に移転する可能性がある」と述べている。台湾の2大サイエンスパークは新竹市と台南市の近くにある。
「新竹サイエンスパークは、インドもしくはベトナムに移転される可能性がある。台湾には、新興国が独自の産業を構築する支援をする義務がある」(Huang氏)
台湾のエレクトロニクス企業は、半導体から完成したシステムまで世界のエレクトロニクスサプライチェーンのあらゆる部分に存在しているが、悪化の一途をたどる米中の地政学的な争いに巻き込まれまいとしている。米シンクタンクのStratforでエグゼクティブバイスプレジデントを務めるRodger Baker氏は、「台湾のサプライヤーに依存している多国籍企業は、自社が直面する政治的リスクを懸念している」と述べている。
Baker氏は、「中国は、台湾と取引したり台湾との関係を深めたりする他国の企業に、経済的影響力を利用して対抗することができるため、サプライチェーンにはリスクがある」と述べている。
中国は、70年以上にわたり独立自治を続けてきた台湾を“反逆地域”と見なしており、台湾を軍事力で奪取する可能性を否定していない。
中国の軍用機はここ数週間、毎日のように台湾の領空に侵入している。米国保健福祉省長官のAlex Azar氏が2020年8月9日(台湾時間)に米政府高官による40年ぶりの高官訪問を行った際にも、中国の軍用機が台湾の領空に侵入した。
Baker氏は、「中国は、大規模な軍事演習を継続して行う能力を持っており、それが不確実性を増大させる可能性がある。そうした不確実性は、再保険のコストを増加させ得る。また、国や企業が、台湾との関わり方を見直すようにもなるだろう」と述べる。
サプライチェーンが世界的に分断されつつあることは、TSMCが米国アリゾナ州に建設する予定の新工場への投資計画にも影響を与えている。トランプ政権は、数年前からTSMCとの取引に向けて動いてきた。背景には、恐らく数年後に中国が台湾に侵攻するのではないかという懸念がある。
「米国とのビジネスを継続したいのであれば、使用しているチップが中国製でないことを確認しなければならない」とBaker氏は述べる。「そしてTSMCは、潜在的なサプライチェーンの重要な一環となるのだ」(同氏)
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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