エッジAI向けプロセッサ、開発競争は激化する?:“カンブリア爆発”が始まるのか(2/2 ページ)
エッジAI(人工知能)への移行は、高性能プロセッサが鍵を握っている。エッジ/組み込みデバイスに匹敵する価格と消費電力量、サイズを実現しながら、優れた性能を提供できるプロセッサである。
エッジAI向けプロセッサの開発が進む?
だが、このような魅力を実現するには、数十億米ドルという膨大なコストを要する上、AI処理をリアルタイムで実行できる高いTOPS性能も必要になる。このため、エッジAIに必要不可欠な条件として挙げられるのは、エッジ/組み込みデバイスに匹敵する価格と消費電力量、サイズを実現しながら、優れた性能を提供できるプロセッサである。
幸いなことに、深層学習アルゴリズムは、反復的な上にかなり単純化されているため、単なる大量の計算/データにすぎない。また、反復的かつ予測可能であるという特性から、このアルゴリズム向けに調整されたプロセッサを開発することは可能だ。
このようなプロセッサは、汎用プロセッサと比べて10〜100倍、またはそれ以上の性能と効率をタスク上で実現することができる。こうした事実に加え、近いうちにAI対応エッジデバイスの数が数十億個規模に達するとの見解が広まっていることもあり、ここ数年間で高性能AI向けプロセッサアーキテクチャの“カンブリア爆発”*)が始まっている。
*)編集注:約5億4000万年前ごろに、今日見られる動物の門の多くが一気に出現した現象(小学館:デジタル大辞泉)
このような最近の進歩に対応するためには、米国カリフォルニア州サンタクララで2020年9月15〜17日に開催予定の「Embedded Vision Summit」で行われるプレゼンから、優れた方法を学ぶことができる。RISCのベテラン共同開発者であり、Googleの「TPU:Tensor Processing Unit」の開発にも携わった経歴を持つDavid Patterson氏は、基調講演のタイトルを、「A New Golden Age for Computer Architecture: Processor Innovation to Enable Ubiquitous AI(コンピュータアーキテクチャが新たな黄金期に突入:プロセッサのイノベーションでユビキタスAIの実現へ)」としており、現在の傾向が完璧に表現されていると言える。
プレゼンのプログラムの中では、新興企業だけでなく、CEVAやCadence、Hailo、Intel、Lattice Semiconductor、NVIDIA、Perceive、Qualcomm、Xilinxなどの実績ある大手メーカーが、それぞれ最新のAIプロセッサを披露する他、そのプロセッサ上でDNN(ディープニューラルネットワーク)のマッピングを効率的に実現することができるツール/技術なども発表する予定だ。さらに、システム設計の専門家たちが、自律飛行ドローン「Skydio」や、農業機械(John Deere)、ロボット掃除機(Trifo)など、さまざまなアプリケーションのエッジAI実装で得られた見識を共有するという。
バーチャル展示会では、Arrow ElectronicsからXperiに至るまでさまざまな出展者たちが披露する、最新のプロセッサや開発ツール、エッジAI向けソフトウェアなどを見るチャンスがある。
Patterson氏の講演タイトルの言葉を借りるなら、われわれはまさに今、実用的なエッジAIとコンピュータビジョンの黄金期に突入している。もしも、エッジAIに関わる“何か”を開発するなら、今がその時なのではないだろうか。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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