NVIDIA CEO「買収完了に自信」、業界は懸念:RISC-Vへの移行が加速?(2/2 ページ)
数週間にわたってうわさされていたNVIDIAによるArmの買収が、ついに正式な合意に至った。NVIDIAは、400億米ドル(約4.2兆円)の株式と現金でArmを買収する。NVIDIAの創業者でCEO(最高経営責任者)を務めるJensen Huang氏とArmのCEOであるSimon Segars氏は、2020年9月14日(米国時間)に報道関係者とアナリストを対象に開催した電話説明会で今回の買収について説明し、Huang氏がこの機会に心血を注いでいることが分かった。
RISC-Vへの移行は加速するのか
業界には、Armの買収によって、一部の競合先が他の命令セットアーキテクチャ(特にRISC-V)へと移行するのではないかと考える向きもある。2020年8月、アナリスト企業のCCS Insightで米国リサーチ担当バイスプレジデントを務めるGeoff Blaber氏は「ArmはRISC-Vとの競争の高まりに直面している。Armのパートナーが、同社の整合性と独立性が低下したと判断すれば、RISC-Vの成長は加速し、その過程でArmの価値は下がるだろう。Armライセンシーの一部は、RISC-Vコミュニティーの一部でもあり、徐々に投資を増やしている」と語った。
TECHnalysis Researchのプレジデント兼主席アナリストであるBob O’Donnell氏も、この買収がArmライセンシーをRISC-Vへと向かわせるとの見方が多いとコメントした。多くの人が、RISC-VをArmの潜在的な競合技術と見ているという。一方で同氏は「実のところ、RISC-Vの成功の大半は、Armの低消費電力マイコンと競合する部分におけるもので、スマートフォンやPC、サーバに用いられる、より大電力のアプリケーションでは何ら影響を及ぼしていない。徐々に脅威になる可能性もあるが、まだまだ先の話だ」とも説明した。
これまで、「RISC-VはArmに脅威を及ぼすか」については多くの議論があった。だが、実際には、多くのチップには異なる機能を担う複数のアーキテクチャを並べて設置することができる。適切なツールとサポートを使えば、そのような異種のチップは共存が可能だ。従って、前述したような脅威は現実には存在しない。
Huang氏は説明会で、「われわれはArmとRISC-Vの熱心なユーザーである。2つのアーキテクチャは非常に異なる。Armは豊富なエコシステムを備えたコンピューティングプラットフォームで、そこがRISC-Vとは違う。われわれは、RISC-Vをコントローラーのように製品の内部で用いている。『Maliに満足しているユーザーもいて、われわれもそれを継続していく」と語ったが、このコメントによって議論は激しくなっている。
“プランB”はあるのか
それでは、何らかの規制上の障害などにより、Armの買収が実現しなかったらどうなるのだろうか。Huang氏は「プランBはあるのか?」と問われた。これに対し同氏は、「プランBは、現状(NVIDIAがArmを買収していない状況)を維持することだ。だが、今回の取引はArmとNVIDIAにとって、世界で最もエネルギー効率の高いコンピューティング能力を生み出す一生に一度のチャンスだ。それが、NVIDIAが最高入札者であった理由でもある。私はプランA(=今回の取引)が実現すると確信している。われわれの組み合わせは、顧客に寄り添ったものだ。規制当局も支持してくれるだろう」と述べた。
Segars氏は「ソフトバンクは、Armを最大限にサポートしてくれた。当社の製品ポートフォリオは、4年前よりも格段に広がった。NVIDIAの下でも、AIコンピューティングのビジョンの実現に向けて進んでいけると考えている」と語った。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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