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東京大、光で窒化シリコン薄膜の熱伝導率を倍増新たな放熱機構として期待

東京大学生産技術研究所は、表面フォノンポラリトンを用い、窒化シリコン薄膜の熱伝導率を倍増することに成功した。先端半導体デバイスなどにおける新たな放熱機構として注目される。

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膜厚30nmと50nmの試料において熱伝導率が増加

 東京大学生産技術研究所のユンフイ・ウー特任研究員と野村政宏准教授らは2020年9月、熱によって薄膜に生じる表面フォノンポラリトンを用い、窒化シリコン薄膜の熱伝導率を倍増することに成功したと発表した。先端半導体デバイスなどにおける新たな放熱機構として注目される。

 固体中の熱伝導は、振動を量子化した準粒子「フォノン」の移動によって説明されている。ところが、先端半導体デバイスのように薄膜化が進むと、表面での散乱によってフォノンの移動が妨げられ、熱伝導率が大きく低下するという。素子の発熱によっても熱伝導率は低下するため、先端の半導体デバイスなどでは、新たな放熱対策が必要となっていた。

 研究チームは今回、表面フォノンポラリトンに注目した。熱伝導率の低い薄膜構造において、伝搬速度が10万倍も速い光の力を借りることで、熱伝導率がどのように変化するかを調べた。


上図は表面フォノンポラリトンによる放熱の概念図、下図は薄膜中のフォノン伝導と表面フォノンポラリトンの熱伝導 出典:東京大学

 実験では、厚み30〜200nmの窒化シリコンの薄膜に、熱伝導率測定用として直径5μmで厚み70nmのアルミ薄膜を蒸着した試料を用意し、光を用いて非接触による熱伝導計測を行った。具体的には、光パルスでアルミ薄膜を瞬間加熱し、別の温度変化観測用レーザー(プローブ)で窒化シリコン薄膜の熱散逸時間を測定。このデータを基に、シミュレーションで窒化シリコン薄膜の熱伝導率を算出した。


実験に用いた熱伝導計測用光学システムの概要と試料構造 出典:東京大学

 次に、厚みが30nm、50nm、100nmおよび、200nmと異なる4種類の薄膜試料を用い、温度を室温から500℃まで変えて熱伝導を測定した。一般的に、物質の温度が上昇すると熱伝導率が低下するといわれている。

 測定結果から、膜厚200nmの試料では熱伝導率が温度の2乗で減少することが分かった。膜厚100nmでは減少傾向が薄れ、膜厚30nmと50nmの試料では、逆に熱伝導率が増加した。研究チームは、「表面フォノンポラリトンによる熱伝導が、薄膜では重要な役割を担っている証拠」とみている。

 表面フォノンポラリトンの伝搬長と熱伝導に関する理論計算でも、薄膜であるほど表面フォノンポラリトンの熱伝導率は大きくなり、高温になるほど増加することが明らかとなった。

 また、薄膜中のフォノンは、平均自由行程が約100nmである。これに対し、表面フォノンポラリトンは、薄膜の面内寸法(膜厚30nmの試料は5mm、それ以外の試料は1mm)で制限される1000倍程度以上の極めて長い平均自由行程を持っていることが分かった。これは、「フォノンが光と混合状態を形成し、桁違いに高速で低損失の伝搬を実現したため」と分析している。

 研究チームは、表面フォノンポラリトンによる熱伝導率の温度依存性を室温(295K)値で規格化した。膜厚100nmの試料で、表面フォノンポラリトンによる熱伝導効果が表れ始めた。膜厚30nmと50nmの試料では、フォノン熱伝導と同等になり、倍増することが明らかとなった。


左は異なる膜厚の窒化シリコン薄膜における熱伝導率と理論計算によって得られた表面フォノンポラリトンのみによる熱伝導率の温度依存性。右は室温(295K)で規格化された熱伝導率の温度依存性 出典:東京大学

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