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ハニカム格子イリジウム酸化物の合成に成功真空成膜技術で薄膜化

東北大学と東京大学の共同研究グループは、真空成膜技術を用い、ハニカム格子イリジウム酸化物の人工超格子を合成することに成功した。量子スピン液体をもたらす物質として期待される。

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量子スピン液体をもたらす物質として期待

 東北大学金属材料研究所の藤原宏平准教授と三浦径大学院生(当時)、塚崎敦教授および、東京大学大学院工学系研究科の柴田直哉教授らによる共同研究グループは2020年8月、真空成膜技術を用い、ハニカム格子イリジウム酸化物の人工超格子を合成することに成功したと発表した。この化合物は、量子スピン液体をもたらす物質として期待される。

 スピン同士が強く相互作用しながら、極低温まで秩序化しない特殊な状態の量子スピン液体は、量子コンピュータへの応用可能性が示されたことから、素子への展開が期待されている。キタエフ模型と呼ばれる理論が登場し、量子スピン液体の有力候補となる物質も既に開発されている。しかし、既存の物質は一般的な真空成膜法による薄膜化が極めて難しいという。

 研究グループは今回、水素(H)やリチウム(Li)、塩素(Cl)などを含まないイルメナイト型酸化物に着目した。組成式はABO3で記述される安定した結晶構造の1つである。AとBは金属陽イオンで今回はAをMn、BをTiとIrにした。Oは酸素陰イオンである。真空成膜法を用いて、薄膜を形成することが可能だという。

 具体的には、イルメナイト型MnTiO3(反強磁性体)をベースに、パルスレーザー堆積法を用いて、イルメナイト構造のMn-Ir-Oをもつ新物質を合成した。Mn-Ir-O単体は不安定なため天然には存在しないが、MnTiO3薄膜で挟み込んだ人工超格子を作製することで、安定した構造とした。

 電子顕微鏡を用いて詳細な構造解析も行った。この結晶構造はイルメナイト構造に合致しており、イリジウムイオンのハニカム格子を有することが明らかとなった。また、スピントロニクスの計測結果から、極薄膜Mn-Ir-OはMnのスピンが秩序化していない、特異な磁気状態にあることが分かった。


上図はイルメナイト型MnBO6の結晶構造。下図は作製したハニカム人工格子の模式図と原子分解能電子顕微鏡像 出典:東北大学、東京大学

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