モバイルからクラウドまで狙うQualcomm:エッジAIにも注力
Qualcommは現在、次世代クラウドインフラストラクチャおよびエッジコンピューティングの分野に資金を投入している。このことから同社が、携帯端末と接続、エッジコンピューティングによって構成されるモバイルコンピューティングチェーン全体を所有したいという野望を持っていることが分かるだろう。
Qualcommは現在、次世代クラウドインフラストラクチャおよびエッジコンピューティングの分野に資金を投入している。このことから同社が、携帯端末と接続、エッジコンピューティングによって構成されるモバイルコンピューティングチェーン全体を所有したいという野望を持っていることが分かるだろう。
QualcommのCEO(最高経営責任者)であるSteve Mollenkopf氏は2020年11月、2020年第4四半期(7〜9月期)の業績発表を行い、売上高が当初の予想を約2億米ドル上回る65億米ドルに達したことを明らかにした。前年同期比では35%増となる。1株当たりの利益は、過去最高となる1.45米ドルを記録した。また、同社のハードウェア関連の売上高は大幅に増加しているが、今回の業績発表の中には、Appleの最新機種「iPhone 12」関連の売上高が最小限しか含まれていないのだ。今後iPhone 12の販売台数が増加するに伴い、Qualcommの2021年第1四半期の売上高はさらに伸びていくだろう。
今後も引き続き注目を集めるとみられているのが、RFコンポーネント市場だ。QualcommにおけるRFフロントエンド製品の最新の年間売上高は、前年比60%増となる24億米ドルに達する。Qualcommは今後の展望として、モバイル市場だけでなくさまざまな産業分野において5G(第5世代移動通信)普及を推進していくことにより、引き続き5G拡大に向けて取り組んでいく予定だとしている。
同社は今や、車載テレマティクス用ベースバンドチップの分野において、ユビキタスな存在になりつつある。Mollenkopf氏は、「Qualcommが5G市場において獲得した車載テレマティクス関連の新しいデザインウィンは全て、当社のフロントエンドコンポーネントも使用していると」と述べる。
RF技術への注力が必要なのは、周知の事実である。今回の業績発表の目新しい点としては、Qualcommが次世代クラウドインフラ/エッジコンピューティングに投資していることについて言及したという点が挙げられる。
Mollenkopf氏は、「クラウドは、モバイルインターネットと合流し、ワイヤレスネットワークは仮想化が進んでる。インフラストラクチャは既に、デジタルサービスと交差し始めている」と指摘し、新たな方向性について説明した。さらに同氏は、「こうした状況が続く中で、われわれは10年以上にわたってAI(人工知能)関連の研究開発に取り組み、10億台を超えるQualcomm製AIデバイスを出荷してきたことによって、データセンターやエッジ機器、5Gインフラの実現を目指していく上での専門知識を提供してきた」と付け加えた。
Qualcommはプレゼンの中で、引き続きRAN(Radio Access Network)の仮想化に注力することにより、同分野における優位性を確立していきたい考えであることを示した。Mollenkopf氏は、仮想化無線アクセスネットワーク(vRAN)について言及したが、それを直接データセンターと結び付けることはなかった。Qualcommのデータセンターに関する発表が、vRANイニシアチブに対してどれくらい強く関連付けられているのかは不明だが、ある程度重なっている部分があるようだ。
Qualcommにとって同市場における競合相手となるのが、Samsung Electronics(以下、Samsung)である。Samsungは2020年夏に、5Gへの移行を進めている通信事業者に向けた完全仮想化RANを発表している。この5G vRANは、仮想化された集約基地局(vCU)とリモート局(vDU)の他、幅広い種類の無線装置を備えることにより、5Gへのスムーズな移行を実現するという。
Samsungは発表時に、「既存のRANアーキテクチャで使われている専用のベースバンドハードウェアを、汎用コンピューティングプラットフォーム上のソフトウェアエレメントで置き換えることにより、モバイル通信事業者は、5Gの容量や性能をより容易に増強したり、新しい機能を迅速に追加したりできるようになる他、複数のアーキテクチャをサポート可能な柔軟性を実現することも可能だ」と述べている。Samsungのソリューションは、x86プラットフォームを使用している。
Mollenkopf氏は、今回の業績発表の場を、この新しい市場について言外にほのめかすチャンスとしても利用したようだ。
データセンターを稼働させるにあたり、電力使用量は大きなコストとなるため、システムの規模や使用量が拡大するに伴い、電力効率の重要性がますます高くなる。恐らく、Qualcommほどデータセンターと相性がいいメーカーは他にないだろう。
Qualcommはクラウド向け推論アクセラレーター「Cloud AI 100」のサンプル出荷を開始した。最終製品の製造は既に開始していて、2021年前半には出荷を開始できる見込みだという。
データセンター分野においてはx86プラットフォームがまだ圧倒的優位に立っているが、Armベースのプロセッサが近いうちに侵食していくのだろうか。その中には、Qualcommの製品も入っているのだろうか。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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