「全てをMade in Chinaに」は正しい戦略なのか?:専門家が警鐘を鳴らす(2/4 ページ)
中国 清華大学の教授であり、中国半導体産業協会(CSIA:China Semiconductor Industry Association)の半導体設計部門担当チェアマンを務めるWei Shaojun氏は、2020年11月5〜6日に中国・深センで開催した「Global CEO Summit 2020」で基調講演に登壇し、『全てをメイドインチャイナに(All Made in China)』という戦略は、果たして正しい選択なのだろうか」とする疑問を投げかけた。
2004〜2019年までの中国のIC産業
2004年から2019年まで、中国のIC産業は急速に成長し、生産額は14倍近くに増加した。Wei氏は、年平均成長率は19.2%で、世界の年平均成長率である4.5%をはるかに上回ったと指摘する。CSIAが2020年に発表したデータによると、2019年、中国の半導体IC産業は二桁成長を維持し、年間売上高は前年比15.8%増の7562億3000万人民元(約11兆円)に達した。
過去15年間、チップ設計産業は急速に発展してきた。中国のチップ設計産業は台湾を抜いて世界第2位となり、世界のIC設計産業におけるシェアは2004年の3.56%から2019年には42.99%に増加している。チップ製造についても、年平均成長率17.96%と着実な成長を維持している。さらに、「中国製造2025」などの産業政策やビッグファンドのけん引の下、中国のIC製造業は新たな急成長を迎えようとしている。2014年以降、中国製造業の年平均成長率は24.72%となっている。
Wei氏によると、中国内で製造されたチップ製品は世界市場の10.3%を占めているという。ただし、ハイエンドチップについては依然として中国外へのアウトソースに大きく依存している。Wei氏は「半導体輸入への依存から脱却することはできない」と述べる。
米中デカップリングは「非現実的」
加速する米中間の衝突に相まって、一部の人々が産業界の分断を主張している。米国政府と日本政府はいずれも、製造業の国内回帰を積極的に推進している。だが、現実的に言うと、それらの動きが重要な役割を果たすことはなかった。結局は、中国には巨大市場があり、そのエコシステムを支える比較的完全な産業チェーンがある。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下で、最初にパンデミックを抑え、労働と生産を完全に再開させたのは中国なのだ。
対照的に、中国以外の国や地域ではパンデミックがいまだ厳しく、特にここしばらくは深刻な事態となっている。
中国と米国は長い間、世界的な技術システムに組み込まれてきており、完全に分断することは現実的ではない。
世界的なパンデミックと米中ハイテク戦争という状況において、中国の半導体業界はチャンスと困難の両方に直面している。Wei氏は、「中国は途方もないプレッシャーにさらされてはいるが、われわれにとって冷静になるのにちょうどよい時期だと確信している」と語った。
Wei氏は次のように主張した。
「中国は既に世界的な技術システムに組み込まれており、立ち戻るのは不可能だ。過去2年間、国内のエキスパートや業界のエグゼクティブの多くは、われわれに別のシステムを構築するよう求めてきた。その考えは間違っていると思う。なぜなら、われわれは既に世界的な技術システムの一部となっているからだ。
量子コンピュータや宇宙関連などの次世代技術では、国際的な技術システムは存在していないので、独自のやり方で進むことができる。
だがわれわれは他の領域(電子部品、電気自動車、家電、機器、AI[人工知能]など)のほぼ全てに参入しており、国際的な規格や技術システムの重要な部分となっている。だからこそ、われわれは世界的な技術システムから離れることはできないし、立ち戻ることもできない。別の世界を構築することは不可能なのだ」
McKinsey Global Instituteの研究データによると、中国は電子部品や電気自動車、民生機器、インターネット、ロボティクス、AI、次世代技術など多くの基幹技術において、自立はできていないという。つまり、同データは多くの技術において中国が世界標準の技術を採用している比率が高いことを示している。
国内サプライヤーの割合は比較的高いものの、中国サプライヤーの競争力は低い。これは、多くの技術的革新の源が中国にはなく、中国は世界と技術交流し続ける必要があることを意味している。
別の観点から見ると、太陽光発電パネルや高速鉄道、デジタル決済、スマートフォン、クラウドサービス、ロボットなどの分野では、国内市場シェアが50%を超えているが、海外市場では、太陽光発電パネルとスマートフォンを除いて、中国メーカーの市場シェアが非常に低いとWei氏は指摘した。
Wei氏は「これらの技術を開発し続けなければならないが、世界市場に進出してシェアを高めることも重要だ。グローバル市場に進出しなければ、どうやって開発し、成長し続けることができるというのか。半導体だけでなく、(中国自身の)国際化も必要だ。われわれは、この方向性を守らなくてはならない」と強調した。
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