半世紀に一度のゲームチェンジが起こる半導体業界、「日本が戦う新しい舞台に」:d.labセンター長×SEMIジャパン社長対談(3/3 ページ)
半導体の設計研究センター「d.lab」センター長、先端システム技術研究組合(略称RaaS:ラース)理事長を務める黒田忠広氏が、SEMIジャパン社長を務める浜島雅彦氏とオンラインで対談。半導体業界の展望や両組織での取り組みおよび半導体製造装置/材料業界に求められることなどを語った。
『半導体2.0』におけるd.labとRaaSの役割
黒田氏 このように、「半導体2.0」とも呼べる、半世紀に一度の舞台の大転換が起こり、これまでの50年間とは全く違う新しい舞台に変わろうとしています。そこで大学が果たす役割は「たくさんの学術資産を新しい舞台にふさわしい経営資源にすること」ということで、東大も積極的に動いています。
その1つが産学官連携の仕組みのd.labとRaaSで、d.labがオープン戦略、RaaSがクローズ戦略という位置付けになります。
d.labは協賛事業を2020年10月にスタートしました。化学から部材、製造装置、デバイス、回路、システムからサービスまで幅広い分野の企業が参画しており、各社が総合的な視野を持ってオープンに学術、社会連携を議論し、課題やパートナーを見つけ共同研究やプロジェクトをスタートしてもらいます。現在、参画企業は20社を超えたところで、この春には50社を超えたいと思っています。
キャンパスに集まり、皆でオープンに進めようというのがd.lab協賛事業ですが、実際に産業にまで進めようとすると、情報管理をしながらクローズドに進める必要があります。その場となるのがRaaS。RaaSでは、2つの柱を作ろうとしています。1つは半導体の需要面で、パナソニックや日立製作所、ミライズテクノロジーズ、凸版印刷との産学連携。もう1つが供給面で、製造、素材、装置などの領域で産官学の連携していきたいと考えています。
具体的な注力分野は、AIと5Gの専用チップです。従来のプロセッサやメモリなどの汎用ビジネスから専用ビジネスに移る際に需要が大きいのはAIと5Gと考えています。3D集積によるエネルギー効率向上のほか、できるだけ人が介入することなく、素早く設計するための「アジャイル設計手法」を研究開発し、タイムパフォーマンス改善を図ります。
浜島氏 オープンとクローズの両輪というのは、「これだ」と感じがします。今までSEMIでもオープンで一緒にやろうとメンバー企業といろいろ話してきましたが、オープンは、なかなか本音で最先端を持ってこられない部分もあります。それをどううまくやるか、という立て付けとして、すごく面白いと思います。
黒田氏 日本には素晴らしい財産があるんです。1つは人材、もう1つは産業界エコシステムの広がりです。産業界のエコシステムは大きな財産ですが、ほっておくと枯れてしまう。自分たちでチップを作ろうと思った時、この2つがなければ困ってしまいます。これから必ず舞台が回り日本がパフォーマンスを発揮するときがきますので、その時になって慌てないよう、人材と産業界のエコシステムなんと枯らすことなく維持したい。d.labとRaaSは、そのための働きかけでもあります。
また地政学リスクについても、大学のチャンネルを使えば、もうすこし長期的な観点からネットワークを分断せずにすむでしょう。重要なのは技術というのは人に宿るということ。アカデミアのチャンネルであれば、人的なネットワーク、研究者、技術者のネットワークを温存することができます。これはハイテクであり、イデオロギーの世界ではありません。重要なのは世界の才能をいかに集結し新しい価値を作りだすかということで、是非「学」を活用してほしいと思っています。
浜島氏 人材とエコシステムという意味では、さらなるイノベーションを起こすために人が集まり、つながり、また情報が正しく発信されることが重要だと考えており、2020年もSEMICON Japanを開催することになりました。
この状況ですので、バーチャル開催となりましたが、元経済再生担当大臣の甘利明氏、東京大学総長の五神真氏、SEMI名誉役員で東京エレクトロンの元社長である東哲郎氏によるオープニングパネルや、黒田氏と東大教授の松尾豊氏によるパネルディスカッションなど、対談に力を入れています。地政学に関する見解や業界のビジョン、半導体デバイス、装置まで幅広いトピックを楽しんでほしいと思います。
黒田氏 イノベーションは、AとBをかけた所に新しいものが生まれてくるものであり、国と産業界、アカデミアのリーダーによる対談は非常に興味があります。また、AIの専門家である松尾氏と「AIと半導体をかけると何が生まれるか」という議論も楽しみにしています。
日本の部材、装置メーカーに求めること
黒田氏:部材、装置は半導体産業でものすごく強いので、新たな舞台が形成される際に『新しい舞台はこうあるべきだ』とその強い発言力を活用して、次の時代も日本の部材、装置産業が勝つような競争ルールにしていってほしいと思っています。
浜島氏 その点は、私も常々働きかけてきましたが、まだなかなか、皆さん声を大にはできていませんね。
黒田氏 どうも部品事業という古い考え方に入っているのでしょう。これまでは、顧客が求めている物を一生懸命に品質とコストを突き詰めて提供する、という事業でしたが、これからは逆転すると思います。これからの『部品』はデータです。データをIoTで集め、AIで処理しサービスにする。そのサービスを最後に消費者に届ける、あるいは国中のネットワークに載せるところに半導体を使うのであり、半導体はより価値が高まります。「産業のコメ」から社会の基盤に変わるのです。
浜島氏 サプライチェーン全体を見ると、材料があり、その上に装置、そしてデバイス、アプリケーションと三角形を築いていますが、それがひっくり返るということですね。確かに、どこに一番価値があるかと考えると、テクノロジーの集大成である装置や、日本の機微を持ったサプライチェーンが支える材料だと思います。そこが主役になるということで、われわれもSEMICONなどのイベントや、メディアを通じて情報を発信していかないといけないと考えています。
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