偽造品をつかんでしまうかも……、製造中止で生じるリスク:半導体製品のライフサイクルに関する考察(2)(2/2 ページ)
半導体製品の製造中止(EOL)が起こるとさまざまなリスクが生じることになる。その一例が、偽造品をつかんでしまうリスクだ。今回は、偽装品問題を中心に、事前に備えておきたいEOLで生じるリスクについて考える。
この紛らわしい半導体製品は一体何なのか?
半導体メーカーが契約している正規代理店以外の販売先から半導体製品を購入する際、購入者はその販売先が正規代理店と取引があるかどうかを確認する必要がある。最悪の場合、購入した偽造半導体製品の問題であるにもかかわらず、システム設計自体の再検証に至ってしまうこともある。
これまで、半導体メーカーは市場において、多くの偽造半導体製品を目にしてきた。不良品に大手半導体メーカーのロゴと部品番号を偽装し販売することで収入を得る悪質な会社もいた。そのような製品を購入した会社は、偽造品を用いて半導体応用製品を製造するが、当然のことながら正常に動作しない。この時もし、この会社に不良解析能力が十分でなかった場合、使用していた半導体製品が偽造品であることが分からず正規品であると考え、製品にマーキングされている半導体メーカーに、不良が発生したと報告を入れる。
こういった偽造品の中には、部品をX線で解析することで、パッケージ内のダイが、正規品のダイではないことを確認できる場合がある。あるいは、部品を「デキャップ(開封)」するか、薬剤でプラスチックを溶解することで、パッケージ内部の状態を確認することができる、その結果、半導体製品が偽物であるかどうかが確認できる(図1)。パッケージを開封した際に、ダイが搭載されていなかったり、ダイはあるがダイとリードフレームを接続するワイヤがなかったりという明らかな欠陥製品が見つかることもある。
半導体メーカーによれば、2010年代は、月に1度程度、偽造品に関連した情報を入手していた。さらにそれ以前では、週に複数回情報を入手していた。この状況は、1社のみならず半導体業界全般で発生していた事象だった。半導体製品を購入していた当時の顧客からすれば、半導体メーカーが数多くの不良品を販売しているという不満を抱えていた。ところが、そういった不満を抱えた顧客に対し、半導体製品の入手経路を確認したところ、そのルート上には正規代理店ではなく、非正規代理店経由で購入していたことが判明した。さらに、半導体製品に印字されている日付コードから、パーツが偽造されていることが明らかになった。偽造品であったことが判明した時、それを購入した顧客からすれば、その後悔の念は想像以上のものであったに違いない。手にしてしまった偽造品と同じ数の正規品を至急手配しない限り、彼らのビジネスに影響を与えてしまう。しかしながら、正規品を必要する数量確保する手立ては限られてしまう。多くの企業は、このような苦労を経験してきた。こういった経験から私たちは顧客に対し、製品の流通ルートが明らかではない怪しげな販売代理店からの「購入」に注意するよう常に警告している。
こういった背景から、半導体を購入する際は、半導体メーカーと直接契約している正規代理店から、公正な価格で購入することを推奨する。
しかしながらこれは、正規代理店以外からの購入を完全に否定しているわけではない。購入した製品が問題ないことを確認するために、製品仕様を満たしているかどうか、受け入れ試験の実施などの対策をもって対応すべきである。その結果、問題がなければ、購入した製品は正規品である可能性が高いといえる。
日本では一般的ではないが、海外では、廃品回収業者などで半導体製品を販売することがあり、半導体製品の枯渇などの理由により正規のルートでの購入ができず、このような業者から購入するケースも散見される。しかしながら当然、この行為は非常に大きなリスクを伴う。この業態は、その名前の通り、廃棄された機械などから、再利用できる部品を回収し、販売している業者のことを指す。こうした業者では、半導体メーカーから廃棄された製品を回収して販売するケースも見られる。半導体製品の開発では、量産化になるまでに、何度か試作を繰り返す。特に量産前の試作段階ではある程度まとまった数量の製品を試作する。その際、それら試作品が製品仕様を満たしていない場合は、すべて廃棄処分となる。あるいは、量産中に何らかの原因により、ロット不良になるケースも発生する。本来であれば、こういった製品は半導体メーカー内で廃棄処分し、外部に流出することはないが、何らかの手段を講じて廃棄品を入手し、販売するケースがある。
意図的なカモフラージュも
半導体メーカーによっては、顧客との契約により、意図的なカモフラージュを施す場合がある。これは、競合他社が対象の製品を簡単にリバースエンジニアリングできないようにするために、パッケージに別の製品型番を印字するものである。しかも、顧客との契約による限定されたケースであるために、広く知られている事象ではないが、こうしたカモフラージュは実在している。
これは、PCが市場に出始めたころ、実際に起きた話である。当時、あるメーカーのPCは、市場での評価が高く、競合他社は後じんをを拝していた。そこで、競合他社のエンジニアは、そのメーカーの製品を購入して分解し、部品からプリント基板まで、すべてをコピーした。その中に、20ピンのDIPパッケージの製品があり、その型番を見ると、比較的珍しい製品が使用されていることが分かった。そこで、使用されている部品をすべて購入し、組み立ててみたが、まったく動作しなかった。動作しない原因を探ったが、原因がまったく分からなかった。ここでポイントとなるのが、前記した、20ピンのDIPパッケージの製品だった。この製品は一見すると、汎用品のように見えたが実際は、パーソナルコンピュータ向け専用の仕様を持つCPUだった。しかも、通常のCPUではなく、複数の特殊コマンドが追加された製品であり、それらコマンドの内容を知らない限り、製品を再現することはできなかった。結果として、完成品のすべてをコピーしても、同じ製品を再現することはできなかった。
競合他社では、カモフラージュされた製品の本来の型番を確認することができなかった点がポイントになる。例えばこのカモフラージュされた製品が、PAL(プログラマブルアレイロジック)であった場合、リバースエンジニアにとっては、より混乱が生じることになる。最終的に部品がマイクロコントローラーであることに気づくまで、論理マップを作成しようとしていた。その当時でも、プロセッサROM(読み取り専用メモリ)にロックビットを持っている製品では、ROMに書き込まれた機械語を読み取ることができなかった。また、半導体製品にメタルマスクPROMがある場合、ダイを見ればメモリセルを見つけることができるが、4ビットマイクロプロセッサであっても、その作業は非常に手間がかかる。
最後に
半導体応用機器メーカーは、半導体製品の製造中止や廃品種に対して積極的にアプローチすることにより、生産中断のリスクを軽減し、偽造部品に対しても強い立場を取ることができる。半導体製造中止品の代替ソリューションは、さまざまな障害を引き起こす可能性があり、時には隠れた不整合をもたらす。その中には明らかに認識できるものもあれば、診断が難しいものもある。これらの障害を排除するためには、高い信頼性と費用対効果の大きい選択が必要である。
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