2050年までの世界半導体市場予測 〜人類の文明が進歩する限り成長は続く:湯之上隆のナノフォーカス(34)(4/4 ページ)
コロナ禍にあっても力強い成長を続ける半導体市場。2050年には、どのくらいの市場規模になっているのだろうか。世界人口の増加と、1人当たりが購入する半導体の金額から予測してみよう。
あらためて2050年の世界半導体市場を予測
世界半導体市場は、筆者の予測をはるかに超えて、力強く成長していることが分かった。そこで、あらためて、2050年の世界半導体市場を予測してみたい。
図10の半導体出荷個数のグラフの傾きから、半導体は毎年310億個ずつ出荷個数が増大していると算出できる。また、その平均価格は2020年時点で0.461ドルである。従って、世界半導体市場は、毎年平均で310億個×0.461ドル=約143億ドルずつ増大すると計算できる。10年間の増加分は、その10倍の1430億ドルになる。
その結果、世界半導体市場は10年ごとに1430億ドルずつ増大していくことになり、2050年には8622億ドルになると予測できる(図11)。
ここで、次のような予測もできる。2011年時点では、毎年250億個ずつ出荷個数が増大しており、その平均価格が0.43ドルだったことから、世界半導体市場は10年間で1075億ドルずつ増大していくと計算された。
2020年に同じ手法で計算した世界半導体市場の10年間の増加分は1430億ドルであり、これは2010年の1075億ドルの約1.33倍である。この10年間でスマートフォンが世界中に普及し、それに使われる半導体出荷額が飛躍的に増大した。また、本格的なビッグデータの時代が到来し、データセンターのサーバ用半導体市場も大きく成長した。それが1.33倍という増大につながっていると考えられる。
このようなことが次の10年間でも起きるのではないか。実際、5G(第5世代移動通信)用スマートフォンの出荷台数が増大しており、AI用半導体も増え始めているからだ。そこで、10年ごとに、出荷個数×出荷額の増加分が1.33倍になり続けると仮定してみよう。すると、2050年の世界半導体市場は1兆123億円と計算される。この市場規模は、2020年の4331億ドルの2.34倍である。
2045年にシンギュラリティが到来した場合、その5年後には、世界半導体市場が1兆ドルを超える可能性があるということである。
人類の文明が進化する限り世界半導体市場は成長する
今から30年後の2050年に、世界半導体市場は8622億〜1兆123億ドルになると予測した。
しかし、直近では、米中ハイテク戦争が激化することにより、世界半導体市場の成長が阻害される可能性がある。また、10年後には半導体の微細化が1nmレベル以下になって、原子サイズのオングストロームの領域に突入し、本当に微細化が止まってしまうかもしれない。さらに、地球温暖化など環境問題が深刻になり、半導体の製造能力拡大が困難になることも考えられる。そのため、10年前と同様に、「そんなに成長するとは思えない」と批判を受けるかもしれない。
このような批判に対して、筆者は反論したい。いま一度、図8を見て頂きたい。世界人口構成では、10年ごとに、先進国と新興国の中間層がそれぞれ5億人ずつ増える一方、貧困層が次第に減少すると予測されている。
人類の文明が進歩するから半導体が必要になるのか、半導体の普及が人類の文明を進歩させているのか、それは筆者にも良く分からないが、いずれにしても、人類の文明の進歩にとって半導体は必要不可欠になっている。そのような半導体の世界市場は、コロナで人類が滅亡したりしない限り、長期的には増大する一方であるはずで、減少するとは考えられない。
従って、読者も筆者も、この未曾有のコロナの危機を乗り越えて、30年後の半導体の世界を見ることができればと願わずにはいられない。まずは、手洗い、うがい、マスクの着用、不要不急の外出自粛を徹底し、コロナに感染しないように最大限の注意を払おう。
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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