反逆の通貨「ビットコイン」を使ってみた:踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(10)ブロックチェーン(4)(5/6 ページ)
ブロックチェーンを理解するための手掛かりとして解説してきた「ビットコイン」。今回は、残件となっていた「ビットコインを実際に使ってみる」という実証実験の結果を報告します。ビットコインを1ミリも信用することができない私にとって、これは最初で最後の実証実験となるでしょう。
決済方法が見当たらない
さて、これらの手続きが終わって、「ビックカメラ」への遠征(往復2時間以上、電車賃440円)を控えた前夜、私はYouTubeで支払い方法の予習をしていました ―― スマートかつエレガントに支払いを行いたかったからです。レジの電子決済で、あたふたするなんぞ、ITエンジニアとしてはこれ以上もない恥です。
しかし、BitFlyerのホームページのどこを探しても、決済用のQRコードリーダのメニューが見つかりません。なんでないの? YouTubeにも説明用画面にもFAQにも、そのような記載を見つけられませんでした(本当)。
2時間後、ようやく、スマホの専用アプリをインストールする必要があることが分かりました。
―― “システム縛り”に加えて、さらに“アプリ縛り”かよ*)。
*)ブラウザでもQRコードリーダーは作れます(自作したことがあります)
と思いましたが、文句を言っても仕方ありません。Apple StoreからbitFlyerのiPhoneアプリをインストールして、QRコードのスキャン画面が起動することを確認しました。
ビックカメラに行っても欲しいものがなかった私は、次女(高校3年生)に「撮影助手するなら、ビックカメラで何でも買ってやる。ただし、3700円までのものに限る」といったら、次女はホイホイと付いてきました。
彼女は3260円のワイヤレスマウスを提示して、私はそれを持って、レジに並びました。そんでもって、私はレジの女性の方と、なかなか印象的な会話をすることになります。
江端:「では、このマウスを。支払いはビットコインでお願います」
レジの女性:「は?」
江端:「ビットコインで」
レジの女性:「“ビックコイン”ですか?」
なんだ、その“ビックコイン”とやらは。知らんわ、そんなもん。
江端:「“ビ・ッ・ト”コイン!」
と大きな声でいったら、そのレジの女性は、持ち場を離れて誰かに相談しに消えてしまいました。私は、この時、実感しました。
―― ビットコイン……ないわー
と。
別の店員さんが、レジに設置されているスマホ(?)にQRコードを表示して、それを、私のスマホにインストールされたbitFlyerのアプリのQRコードリーダーで読み込むことで、支払いが完了しました。
決済のタイミングは1秒くらいだったと思います。(使ったことはありませんが、多分)PayPayと同じ仕組みだと思います。決済の時間はSUICAなどの電子マネーと大差ありませんでした。
でも、これって変です ―― ビットコインは、その仕組み上、この10分間を短縮できないはずなのです。
ビットコインは決済に10分間(私の試算では9.6分間)かかるはずです。これはビットコインシステムのコアです。これは「技術で高速化できる」というものではなく、コンセンサスアルゴリズムの機能要件から絶対に必要な10分間なのです(関連記事:「ビットコインの運命 〜異常な価値上昇を求められる“半減期”」)。
もし1秒で決済ができてしまうなら、ビットコインの半減期は600倍まで短縮されることになります。そうなると、ビットコインのラストデーは119年後どころか、72日後になってしまいます。
で、ちょっと調べてみた結果、この時間の短縮をしてくれているのがbitFlyer社のプラットフォームのようです。
「加盟店と消費者間の支払いはbitFlyer社のプラットフォーム内で完結し、料金前払いのデポジットで支払う」との記載がありました。つまり、空白の10分間をbitFlyer社が担保してくれているというわけです。その担保金が、前述した1300円分ということなのでしょう。
では、今回の実証実験のレポートを提出します。
(1)総括:なんか、想像していたのと違う
(2)具体的内容:(a)bitFlyerという決済会社のホームページやアプリ縛りだし、(b)その決済会社と連携しないと支払いできない仕組みができているし、(c)ビットコインの取り扱い店舗の店員が「ビットコイン」を知らないし、(d)ビットコインの基本性能を決済会社のプラットフォーム側でサポートしている
(3)結論:他の電子マネー決済と比べて、使い勝手にこれといった差はなかったが、ホームページでの登録手続きは壮絶に面倒くさかった
(4)その他:決済会社を通さない利用方法がないか調査中であるが、少なくともビックカメラでは、bitFlyer社のシステムが必須。なお、日本円との交換を行うためには、認定された決済会社が必要である
「これが自由な通貨?これなら、Amazonギフト券(額面指定できる)と大差ないじゃないか」と思ったのは事実です。
もっとも、インターネットにしても、キャリアやインターネットプロバイダーとの契約にもとづく支払いをしていることは、bitFlyerにお金を払い込むことと同じことだろうと言われたら、まあ、その通りです。
もっと言えば、私たちは、「便利な日本円」を使う環境のために、生涯収入の4分の1〜2分の1程度のお金を税金として取り立てられて、その一部が“暴力装置(警察や自衛隊)”の運用に使われているわけですが、日本円を使うために「日本国」という決済会社にお金を払っているのと同じことです。
それにしても、「仮想通貨と違って、法定通貨(日本円)って、本当に使い勝手がいいよなぁー」と実感しています。
実験終了後、bitFlyerのアカウントを消去しようと思ったのですが、毎日ビットコインのレートをスマホに送付してくることと、bitFlyerのホームページの「レート変動」を眺めているのが ―― 特に、「値下がりしている時の”bitFlyer Lightning”の様子」をアラート音付きで見ていると、ネットの向こう側の阿鼻叫喚が聞こえてくるようで ―― とっても楽しい。
というわけで、まだアカウントは消さないで、時々、リアルタイムの取引を眺めています ―― うん、自分でも自分のことを『最低な奴』と思います。
編集担当からのお知らせ
前編は、ここまでとなります。後半は、近日中に公開予定です。選挙や結婚に「ブロックチェーン」を導入したら、どうなるのか――。いつもの“江端節”がさく裂します。原稿の長さも期待を裏切りません。
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