THz帯で動作するフェーズドアレイ無線機を開発:65nmCMOSプロセスで試作
東京工業大学とNTTの研究グループは、CMOSフェーズドアレイICを用いたテラヘルツ帯アクティブフェーズドアレイ無線機を開発、通信に成功した。スマートフォンなどへの搭載が可能になる。
サブハーモニック型ミキサーで、双方向動作を実現
東京工業大学工学院電気電子系の岡田健一教授らとNTTの研究グループは2021年2月、CMOSフェーズドアレイICを用いたテラヘルツ帯アクティブフェーズドアレイ無線機を開発、通信に成功したと発表した。スマートフォンなどへの搭載が可能になる。
5G(第5世代移動通信)以降の無線通信では、周波数としてテラヘルツ帯の利用が検討されている。通信速度を大幅に向上させることができるからだ。ただ、実用レベルの通信距離や使い勝手を確保するためには、アンテナや送受信機を工夫する必要があった。
研究グループは今回、アンテナの配置方法を工夫するとともに、CMOSプロセスで製造するフェーズドアレイICを新たに考案し、高密度実装を可能とした。新たに開発したテラヘルツ帯フェーズドアレイ無線機は、サブハーモニック型ミキサーを採用することで、同じ回路を送信にも受信にも切り替えて利用できる双方向動作を実現している。
また、送受信する信号の位相制御には、テラヘルツ帯でも広帯域動作を可能にする局部発振器(LO)移相方式を用いた。LO移相器を4逓倍器の前段に設けることで、線形の移相特性を実現している。さらに、双方向増幅器を分布型としたことで広帯域化に成功。送受信機全体として38GHzの極めて広い変調帯域を達成した。
「IF1」および、「IF2」の2系統ある信号経路に、それぞれLO移相器を設けた。これにより、送信時は「アウトフェージング構成」に、受信時は「ハートレー構成」にすることができる。アウトフェージング構成にすることで、平均送信電力を理論値に比べ約5dB向上することができたという。
製造コストや量産性も考慮した。現行の5G向けと同様、プリント基板上にテラヘルツ帯フェーズドアレイを構成する方法にした。具体的には液晶ポリマー基板上の銅箔(はく)にアンテナパターンを形成。その上に4層の薄いCMOS ICを積層した構造になっている。
今回開発したテラヘルツフェーズドアレイICは、65nmのシリコンCMOSプロセスで製造した。チップサイズは1.70×2.45mmである。ICに内蔵した移相器を制御し、アンテナ放射パターンを測定した。これにより、位相の設定値にあわせてビームステアリングができていることを確認できたという。消費電力は送信時、受信時ともに0.75Wになった。
変調波による評価も行った。QPSKから16QAMの変調方式に対応可能で、変調帯域は242〜280GHzである。送信機の最大変調速度は52Gビット/秒(16QAM時)になった。
今回の研究成果により、テラヘルツ帯でもアクティブフェーズドアレイを利用できることが分かった。アレイ数を増やすなどして、通信距離を延ばしていく予定だ。今回の実証では1次元アレイを用いたが、2次元アレイも可能であり、今後はより高密度なフェーズドアレイを実証していく計画である。
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