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NIMSら、近赤外線向け直接遷移型半導体を発見安価で毒性のない元素で構成

物質・材料研究機構(NIMS)は、東京工業大学と共同で、カルシウムやシリコン、酸素という安価で毒性元素を含まない、近赤外線向けの直接遷移型半導体を発見した。

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IV族元素が陰イオンとして振る舞う結晶構造に着目

 物質・材料研究機構(NIMS)は2020年12月、東京工業大学と共同で、毒性元素を含まない近赤外線向けの直接遷移型半導体を発見したと発表した。この半導体はカルシウムやシリコン、酸素という安価で非毒性の元素で構成される「Ca3SiO」である。

 赤外線領域の高輝度LEDや赤外線検出器など、赤外線領域で用いられる半導体の多くはこれまで、「テルル」や「カドニウム」など、毒性元素を含む材料を用いていた。原子番号の大きい元素を含む物質は、バンドキャップが小さくなる傾向があるためだ。このため、元素の周期律表で「III族−V族」または「II族−VI族」に属する元素を組み合わせて、バンドギャップなどの半導体特性を制御してきた。


元素の周期律表 (クリックで拡大) 出典:NIMS

 研究グループは今回、毒性元素を含まない半導体を見つけ出すため、従来とは異なる探索指針を検討した。そこで注目した元素が、IV族の「シリコン」や「ゲルマニウム」である。通常は+4価の陽イオンとして振る舞うシリコンが、−4価の陰イオンとして寄与する結晶構造に着目した。シリコンが形式的に−4価の陰イオンとして振る舞う化合物は珪化物(シリサイド)と呼ばれる。ところが、珪化物の多くは間接遷移型のバンドキャップを持ち、発光素子への応用には適さない材料であった。

 そこで今回、3種類以上の構成元素からなる化合物を検討した。珪化物では形式電荷が−4価のシリコンのみが陰イオンである。今回発見した半導体は、結晶構造の中に2種類の陰イオン(形式電荷−4価のシリコンと形式電荷−2価の酸素)を含んだ酸珪化物(オキシシリサイド)で、逆ペロブスカイト型結晶構造を形成しているという。この酸珪化物は、化学組成式が「Ca3SiO」で、カルシウムとシリコン、酸素で構成されている。


Ca3SiO半導体の逆ペロブスカイト型結晶構造 出典:NIMS

 作製したCa3SiOは黒色の化合物で、逆ペロブスカイト型構造のCa3SiOであることを、X線回折測定により確認した。また、拡散反射スペクトルや発光スペクトルといった光学特性を調べると、光学吸収端と蛍光スペクトルのピークが同じエネルギーに観測され、バンドキャップは約0.9eV(波長では1.4μm)と小さく、直接遷移型半導体になることが分かった。

 英国UCL(University College London)のA.Shluger教授らと第一原理計算を行った。この結果、Ca3SiOはΓ点に伝導帯の底と価電子帯の頂上を持つことから、直接遷移型の半導体であることが確認された。さらに、電子、正孔ともに比較的小さな有効質量を有することが計算により判明。Ca3SiOの伝導機構制御や、p-n接合を用いた素子を実現できる可能性が高い、ことなども分かった。

左はCa3SiOの光吸収スペクトルと発光スペクトル、右はCa3SiOの電子のバンド構造 出典:NIMS

 研究グループは、Ca3SiOのカルシウムやシリコンを、他の元素に置換した逆ペロブスカイト型構造の化合物も作製した。「カルシウムをストロンチウムへ」あるいは、「シリコンをゲルマニウムへ」と、それぞれ置き換えた化合物が得られたという。さらに、Ca3SiOとCa3GeOの混晶であるCa3(Si、Ge)Oの合成も行い、元素置換によるバンドギャップや格子定数の変化を確認、半導体として物性制御が可能であることも分かった。

 研究グループは今後、発見した半導体の「大型単結晶の合成」や「薄膜成長プロセスの開発」「ドーピング・固溶による物性制御」といった研究に取り組み、赤外線領域の高輝度LEDや高感度検出器の開発を目指す。

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