BaTiO3におけるBaとTiの静電相互作用を発見:時間分解X線吸収分光法を開発
広島大学と東京工業大学、静岡大学、高エネルギー加速器研究機構およびラトビア大学らの研究グループは、新たに開発した時間分解X線吸収分光法を用い、チタン酸バリウムにおけるバリウムイオンとチタンイオンの静電相互作用を、リアルタイムで観測することに成功した。
環境に優しい強誘電体材料の開発に弾み
広島大学と東京工業大学、静岡大学、高エネルギー加速器研究機構およびラトビア大学らの研究グループは2021年3月、新たに開発した時間分解X線吸収分光法を用い、チタン酸バリウム(BaTiO3)におけるバリウム(Ba)イオンとチタン(Ti)イオンの静電相互作用を、リアルタイムで観測することに成功したと発表した。環境に優しい強誘電体材料の開発に弾みがつくとみられている。
BaTiO3は、鉛を使わない強誘電体として注目され、スマートフォンなどに搭載される積層コンデンサーに用いられている。BaTiO3の優れた特性について、チタンと酸素(O)の電子共有に由来することは一般的に知られている。しかし、バリウムについての理解は、これまで十分でなかったという。
そこで研究グループは今回、高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリーにおいて、BaTiO3薄膜に交流磁場をかけながらX線を照射し、この時に生じる電子状態の変化を、マイクロ秒以下で信号処理を行える半導体X線検出器を用いて観測することにした。
この結果、チタンと酸素の共有結合の強度変化だけでなく、バリウムとチタンの間に働く静電相互作用の存在とその強度変化についても、電圧が変化するタイミングに合わせて測定することに成功した。これまでバリウムは酸素と電子軌道が混成するとみられていた。今回の実験により、陽イオン同士のバリウムとチタンの間にも電子相関があることが初めて明らかになったという。
新たに開発したサブマイクロ秒時間分解と軟X線吸収を組み合わせた時間分解X線吸収分光法は、測定対象として電場をかけた誘電体材料だけでなく、応力を加えた圧電体材料やパルス磁場での磁性体材料などの物質研究にも有効な手法だという。
今回の研究成果は、広島大学大学院先進理工系科学研究科の加藤盛也大学院生や中島伸夫准教授らと、東京工業大学科学技術創成研究院の安井伸太郎助教、同大学物質理工学院の安原颯助教、静岡大学大学院総合科学技術研究科の符徳勝教授、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の足立純一研究機関講師、仁谷浩明助教、武市泰男助教および、ラトビア大学のアンドリス・アンスポックス主任研究員らによるものである。
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