「コロナワクチン」接種の前に、あの医師が伝えておきたい7つの本音:世界を「数字」で回してみよう(66)番外編(11/11 ページ)
いよいよ始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種。コロナ禍において“一筋の光”でもあるワクチンですが、変異株の増加など心配なことも増えています。今回は、前回に続き、あの“轢断のシバタ先生”が、ワクチンそのものに対する考え方や変異株の正体、全数PCR検査の机上シミュレーションなど、読者に伝えておきたい7つの“本音”を語ります。
リモート環境のリーダー「新リア王」が登場してきます
後輩:「江端さんは、このコロナ禍の中において、自分のことを“勝ち組”とか思っていませんか?*)」
*)著者ブログ「これも、私の徹底的な「アンチ・チームプレーの精神」に基づく成果だなぁ、と、しみじみと感じ入っています。」
江端:「薮から棒に、何だ?」
後輩:「『会社で在宅勤務している』だの、『ぼっち至上主義』だの、『シニアのサラリーマンエンジニアの「ぼっち戦略」』だのと言い続けている江端さんは、ご自分の”閉じた世界”が、現時点のコロナ禍の行動変容とドンピシャで、”キターーーー!”とか思っていませんか?」
江端:「そんな“勝ち組”だの“負け組”だの……」
後輩:「自宅のコロナ対策(リビングテーブルのアクリル板パーティション、ビュッフェスタイル)を、積極的に世の中に開示しているあたり ―― コロナ禍に、積極的に”適応”していこう、という姿勢が見えますね」
江端:「……」
後輩:「いや、“適用”……というよりは、“追従”、いや、“迎合”?、もしかしたら“歓迎”とか……」
江端:「殺人ウイルスを“歓迎”するって、どの異世界の魔王だ!」
後輩:「そんなこと言ったって、江端さんが憎悪してきた世界の一部が壊されているのは事実ですよね。
- 何百人単位で大きな会場に詰め込まれる全体集会とか、
- 同調圧力と保身で出席を強いられる定例会議とか、
- 『部下の自発性に任せる』と言い換えて、具体的に自分の意図する指示を出せない低能上司とか、
- 無駄に長い『乾杯の音頭』で、ビールの温度が体温になるまでもしゃべる続けるド阿呆幹部とか、
さらには……」
江端:「ちょっと待て! 自分の不満を、私(江端)の言葉として置き換えるのは、ひきょうだ」
後輩:「今回のシバタレポート後半、どうも、編集担当の江端さんの願望、『元の世界には戻りたくない』『こっちの異世界の方がいい』という思いが、どうにも私には透けて見えるんですよね」
江端:「『変異株によるワクチン無効化の可能性』や、『全数PCR検査によるRtシミュレーション』のこと? いや、あれはシバタ先生のレポートを、簡易な用語と言い回しにして書き換えたものだし……」
後輩:「そうですかねー。私も、今回のレビューで、シバタレポートの原文、全て読ませて頂きましたが、今回はとても”恣意的”な江端さんの改竄(かいざん)を感じるんですよねー。気のせいですかねーー」
後輩:「というか、江端さん。心配しなくても、世界は、逆戻りはしません。私たちは『知ってしまった』からです。これまで“もし、こんなことができたら……”で語られてきた世界は、私たちの命を人質として、実行に移されました。そして、私たちは「できなかった」のではなく、単に「やらなかった」のだということを、コロナウイルスによって、証明させられたのです」
江端:「まあ……それはそうかもしれない」
後輩:「ただ、江端さんが見誤っていることがあります」
江端:「ん?」
後輩:「江端さんの”ぼっち戦略”というパラダイムは、コロナ渦中の今の世界では、最適解かもしれませんが、そのパラダイムも、間も無く消滅します」
江端:「ん? でも、コロナ禍前の世界への回帰は『ない』んだろう?」
後輩:「それは確実ですが、同時に、コロナ禍の世界が永遠に続く訳ではないのです。アフターコロナの世界には、その世界を前提とした新しい『リア充』が誕生します ―― 新世界の『リア王』です」
江端:「?」
後輩:「んー、そうですね。例えば、リモート飲み会であっても、リモート環境に適した話題を提供し、リモートの場を仕切る者『陽キャ』もいれば、コンピュータのディスプレイの画面の縁の方に「アイコン」のように表示されるだけの者『陰キャ』も出てくるということです」
江端:「……」
後輩:「あるいは、リモート環境の制約を逆に利用して、最も魅力的なプレゼンを行う者も出てくることでしょうし、逆に、どんなに優れた研究発表であっても、リモートのプレゼン力がなければ、誰からも見向きさえしてもらえなくなるでしょう」
江端:「ああ、それは、私もリモートでの国際学会の発表や聴講で実感したな。ここ1年間は、学会発表は、現地開催がなくなって、Webサイトで提出されたビデオを聴講する、という形になっていた。だから、最初の2分間を聴講して『つまらない』と感じたら、その後の28分間分は『スキップ』して、次の発表のボタンをクリックしていた」
後輩:「これは、特に教育現場では顕著なようですね ―― オンライン授業の教材を作成できない、教師の自宅からのネット中継を実現できない ―― そんな教師は、もういらない」
江端:「私は、教師主導の教育の時代の終わりを実感したよ。長女も次女も、『つまらない内容のリモート授業』は、マイクをミュートにして、スマホで音楽聞いていたみたいだ。これは『つまらない授業(プレゼン)をする教師には価値がない、と決めつけても良い』という世界が具体化した、ということだよな」
後輩:「人々を引き付ける言葉や図表や映像を駆使して、コンピュータの最新アプリとうまく連携しあいながら、人々を魅了してけん引する、リモート環境のリーダー『新リア王』が登場してきます。これは絶対です」
江端:「……」
後輩:「江端さんが、コロナ禍において、どれだけ“ぼっち戦略”を唱えようとも、しょせん人間嫌いだけで構成される世界なんて、実現される訳はないんですよ」
江端:「何が言いたい」
後輩:「もし、江端さんが、“ぼっち”であることが、アフターコロナの“勝ち組”の要件と思っているのであれば、それは、大きな勘違いをしている、ということです。
江端さんは、アフターコロナにおいても『新リア王』に傅(かしず)く、モブの一人です。」
Profile
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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